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独自の研究を続けてきた北大の酪農 農学研究院 近藤 誠司先生

環境報告書2019より

近藤 誠司
大学院農学研究院/特任教授
京都市生まれ。1975年北海道大学農学部畜産学科卒業、1977年北海道大学大学院農学研究科修士修了、1986年農学博士(北海道大学)。1977年酪農学園大学助手、1983年北海道大学農学部助手、1988年同助教授、2002年北海道大学大学院農学研究院教授、2014年退職・同特任教授・名誉教授。著書に『知っておきたい乳牛の行動学』(2005年)、『土地資源を最大に生かす、第4章循環型酪農をこうして取り戻す「循環型酪農へのアプローチ」』(2010年)等がある。第2農場の公開に関して整理および解説を担当。

●人間が食べられない草の活用を研究。
旧札幌農学校では、人類が直接利用できない草をどうやって活用するかが考えられ、畜産施設を中心に農業を組み立てるコンセプトのもと、研究がされていたと思います。ですから、草地を使いながら家畜を生産し、どうやって牛乳を搾るかという研究が多かった。ただ、日本の酪農・畜産の動向は1970年代から大きく変わり、アメリカから入ってきた濃厚飼料、いわゆる穀類を与える技術を主体に、1頭あたりの乳量を上げていくようになりました。300日あたりの乳量は、多くて6,000kgだったものが、またたく間に1万kgに高まりました。当時、北大では乳量は5,000~6,000kg、牛の頭数は50頭ぐらいで、周囲からは「近代酪農はそうじゃない」と何度も言われました。
私が酪農学園大学勤務を経て、1983年に北大に戻ってきた頃も乳量は低いままで、伝統的な方法を続けることに迷いが生じていました。そんな時、先輩の教官が「これだけたくさん放牧地があるなら、まじめにやったら放牧で全部搾れるだろうね」と言い、それをきっかけに、実験研究も飼養管理も夏はすべて放牧中心に組むことになりました。しかし、放牧の技術は10年前に研究が止まっていて、うまくはいきませんでした。牧草地に牛を放せば、牛は草を食べるというものではありません。植物は成長段階によって栄養価が変わるため、7~15cmぐらいに維持しなければならず、それは人間が刈るのではなく、牛に食べさせなければいけない。たとえば30頭を一定の面積に放し、草が伸びすぎもせず、足りなくもならないように維持していくには技術が必要です。30年ぐらいの経験が蓄積されて、今の北大の若手研究者はすごくうまくやっていると思います。

●草からできた牛乳を北大マルシェで提供。
放牧を始めた頃から、乳量への考え方が変わってきました。従来は1頭あたりの量を追求していましたが、「農作物の1つなのだから、1haあたりの乳量を増やすことを考えた方が良いのでは?」と。その考え方で10年やって、北大では1haあたり10tの牛乳を搾りました。この数値は世界的にトップだと思います。当時、十勝でも根釧でも1haあたり7tは搾れなかったはずです。というのは、濃厚飼料の分を差し引かなければなりませんから、土地あたりだと高い数値は出ない。CMで放牧地を牛が歩く映像が出てきますが、日本では平均で餌の約45%が濃厚飼料で、草は55%ぐらい。現時点で100%草だけを与えているのは北大と一部の篤農家だけ。これは誇るべきことだと思います。
100%草で牛乳を搾っているなら、「そういう牛乳を求めている消費者にもっと訴えるべきではないのか?」ということで、北大マルシェで牛乳を売るようになりました。これに反対する方もいるでしょうが、札幌という都市の真ん中に放牧をしている空間があって、北大がそういう研究教育をやっていることは知ってもらいたいと思っています。

●キャンパスに緑地があり牛がいる意味。
草を主体に乳牛を飼うのであれば、1頭あたり1haの草地が必要です。10頭飼うなら10haいる。北大では多い時には乳牛を70~80頭飼っていましたが、現在は30頭ほど。減ってしまった背景には、北大が質的にも量的にも充実してきて様々な建物が建ったことがあります。他の分野の人たちから見ると、草地は空き地にしか見えない。これは大きな問題で、「空き地があるじゃないか、あそこに建物を建てさせてほしい」ということは、この40年間頻繁にありました。「農場がキャンパスの中にある必要があるだろうか?」という疑問はあるでしょう。しかし、実験研究施設として学内にこれだけの草地があり牛がいることのアドバンテージは計り知れないものがありますから、ぜひとも続けていきたい。
世界の大学ランクに着目すると、私がリタイアする時に、北大は200~300番目に位置していましたが、農学部としての世界ランクは35番目でした。農学部としてここで牛を飼っていることが、北大のランクを押し上げているということも知ってほしいと思います。また、視野を広げると、ニューヨークやロンドンでも「大都市の中に農業空間など様々な空間をもつべきだ」という都市論が出てきています。札幌という200万都市、国際都市のあり方として、街の真ん中にキャンパスが広がり、その中に放牧された牛がいて果樹園も水田もある。それは、私自身は良いことだと考えています。近代的な都市がどうあるべきか、議論の中で農地についても考えていただきたいと思います。