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名和総長にうかがいました-環境報告書2017より

環境報告書2017より

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北海道大学総長 名和 豊春×サステイナブルキャンパス推進本部 池上 真紀

「サステイナビリティがなぜ大切か」大学では学生に理解される必要がある。

2017年4月、北海道大学第19代総長として名和豊春教授が就任。新キャンパスマスタープラン策定へと進む本学で、新総長は何を想い、教職員や学生に何を期待するのかをうかがいました。
※本インタビューは2017年6月6日に実施。発言はサステイナブルキャンパス推進本部が編集しています。

北海道大学総長 | 名和 豊春 Toyoharu Nawa
北海道大学工学部建築工学科卒業。同大大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了。博士(工学)(東京工業大学)。秩父セメント株式会社中央研究所(現 太平洋セメント株式会社)、秩父小野田株式会社中央研究セメントコンクリート研究所を経て、北海道大学大学院工学研究科助教授。同大大学院工学研究科教授、同大教育研究評議会評議員・大学院工学研究院副研究院長、同大大学院工学研究院長・工学院長・工学部長を歴任し、2017年4月より現職。専門分野は、建築構造・材料、土木材料・施工・建設マネジメント、地球・資源システム工学。

北海道大学サステイナブルキャンパス推進本部 | 特任准教授 池上 真紀 Maki Ikegami
東北大学大学院理学研究科物理学専攻修了。修士(理学)。同大学院環境科学研究科修了。博士(学術)。東北大学大学院環境科学研究科助教を経て、2012年4月より本学に着任。サステイナブルキャンパスとは何か、日本や東アジアに根付くものなのか。多様な解釈が成り立つ“サステイナブルキャンパス”の構築をテーマに教育・研究を実施。成果の1つ、大学が社会に対して果たすべき役割等を具体化した「サステイナブルキャンパス評価システム (ASSC)」は、国内外の大学で持続可能な社会の構築に向けた戦略立案に活用されている。

安全・安心とサステイナビリティ。

池上 まず名和総長ご自身の体験もふまえて、サステイナビリティに対するお考えを聞かせていただきたいと思います。

名和 私がサステイナビリティを意識し始めたのは1995年ぐらいからです。当時、民間企業で高強度コンクリート用セメントを開発し、超高層ビルの建設に従事していました。「いくら耐久性を高めても、ビルは必ずいつか劣化する。その時どうやって安全に壊すのか?大量に出る廃棄物をどう処理し、環境を保全するのか?」と都市のサステイナビリティに疑問をもち、この課題を解決する研究に取り組もうと大学に戻ってきました。

池上 ご専門の建築の分野ですね。

名和 はい。当時の建築業界は主に新築が対象で、持続的発展を重視する方が少ない中で、CO2の排出を抑制した建設材料の研究を開始しました。木造も千年を超える耐久性を示しますが、防災を考えるとコンクリートが勝りますので、まず製造過程におけるCO2を削減できるエコセメントの開発を検討しました。

池上 研究の幅を資源へと広げた理由は何かありますか?

名和 建設業は資源消費産業です。コンクリートをつくるため、砂や砂利などの骨材資源を毎年1人当たり1トン近く消費し、良質な川砂や川砂利は既に枯渇しており、山を切り崩して骨材を獲得することは環境破壊の一因となっていました。また、骨材とアルカリが反応してコンクリートを破壊する劣化も発生し、材料科学的な見地で建設資源を見直す必要があったのです。

池上 教員としても資源の分野へ移っていかれたのですか?

名和 環境問題を研究するには物理や化学の知識が必要ですが、その基礎を建築では学生に教えていません。資源工学では物理・化学を教え、環境汚染やリサイクルも考慮した総合的な環境問題に取り組んでいました。「建設サステイナビリティ学」という新領域を打ち立てるには資源工学の学問領域との融合が必要と感じ、私自身が資源に移り、新しい息吹を送ろうと考えました。
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池上 研究を重ねた上で、建物や環境について何を思いますか?

名和 もっとも大切なのは安全・安心です。東京や札幌のように人口が集中する大都市では、十分な緑地がなければ震災が起きると避難場所が確保できず被害が甚大になる可能性があります。建物の高層化に取り組んだのは緑地を確保しようとしたからですが、阪神大震災でビルが永久には持続しない事実を目の当たりにし、壊す時の危険性や廃棄物処理も考慮し、安全・安心で持続可能な社会を創っていかなければ、という考えになりました。

池上 「安全」は、生命がおびやかされないことでしょうが、「安心」の条件は人によって違うのではないでしょうか?

名和 「安全」は建物が壊れないという機能的なところで、「安心」は「心が安らぐ」ですよね。たとえば威圧的であれば良い建物ではなく、心安らいで生活でき、地震など災害に対して安全が保てることが基本。その次にサステイナブルであるために環境問題を考えなければいけないと思います。

研究と教育は違う。

池上 私は「サステイナビリティ」という言葉は、将来世代が「この先、幸せに暮らしていける」と思える社会かどうかとほぼ同じ意味だと考えるのですが。

名和 同じです。受け継ぐ人たちが、将来に期待がもてる、そういった社会でないといけないと思います。

池上 日本で学生の世代は期待がもてているでしょうか?

名和 それが教育の役割だと思います。大学では、まず学生に「サステイナビリティがなぜ大切か」と「それが自分の将来を創ること」を理解させる必要があります。

池上 教育は大学の本分ですけれども、大学は研究実績を追わないといけません。大学が評価を上げることと、学生にサステイナビリティを理解させることとは、どうつながるとお考えですか?

名和 「研究」は多様であるべきですが「教育」は違います。人として修得すべきことをまず教え、日本の文化や技術を伝承できる人間を育てるのが大学の教育。そうして学生が育てば、自ずと研究成果は上がります。良い研究は良き人づくりからです。

池上 大学世界ランキングトップ100にはつながりますか?

名和 トップ100になれるかどうかは、目的をもち、戦略を練り、方向を定めて進めるかどうかだと思います。北海道大学はそれだけの能力はある。先端レベルの研究を行う先生たちがコミュニケーションをより密にし、リーダーが先導して進んでいくことです。

池上 個々に研究するのではなく、グループで研究するべきと?

名和 たとえば建築において、ある人は柱、ある人は壁、ある人は照明の研究をして、各々の提案を集めても良い建物はできません。デザイナーが「こういう建物で、こういう人を住まわせたい」と理想を描き、皆が協力すると素晴らしいものができ上がる。今、学問はどんどん細分化されていますが、サステイナビリティを考えるなら、もっと大きなくくりで研究しなければいけませんし、今後は俯瞰的なデザイン能力のある人材の育成も大切です。

池上 デザイン能力とは?

名和 何かを創造するには、基礎となる知識を十分に吸収し、コンセプトを明確に打ち出す分析能力とデザインに根拠をもたせる能力を磨くことが必要です。デザイン能力とは、状況を理解し俯瞰的に問題を解決できる能力。言い換えると、解決策を過去のデータからではなく、自分の頭で創造する力です。

池上 日本人は、それぞれの研究や技術は素晴らしくても、それらを組みあわせて生かすアイデアを出す部分が少し苦手な気がしますが。
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名和 そう思い込むようになったのは、明治の頃、近代化を急ぎ、欧米の物真似に走ったからではないでしょうか。自分のアイデンティティに基づいた物作りをすればいい。日本人にも素晴らしい発想や、技術を生かすアイデアがあると思います。

池上 北大生のアイデンティティとは?

名和 イメージは「Boys, be ambitious!」です。学生の6割以上が道外から来て、外国人もいて、いろいろな人たちが混合するキャンパスで自分の存在を示すには、自分の原風景となっている出身地の言葉や文化、さらには考え方を発揮しなければなりません。個性を主張しつつ、異なる文化や考え方を理解するという多様性を経験できることは、北大の強みだと思います。

フィールドに出ていって学びなさい。

池上 最後に、キャンパスづくりに学生を巻き込むことに価値があるかというお話をいただけますか。

名和 今、いろいろな先生たちにキャンパスづくりを考えていただいています。ポプラ並木は80年が寿命で、次々世代の苗木も用意していると聞いたことがあります。そういったことを考えると、建築だけでなく農学、さらに社会科学の先生が「キャンパスはどうあるべきか」を話し合い、学生たちが樹を育てたり建物のデザインをしたりすることに参加して、夢を実現するプロセスを経験するのは、非常に有意義なことだと思います。

池上 キャンパスを研究にも教育にも使うのは、大学の理想的な形かと思われます。

名和 まさに北大の基本理念の1つでもある「実学の重視」だと思います。クラーク先生が言った「実際にフィールドに出ていって学びなさい」の体現です。ものを考える場を提供し、そこに参加させるのが本当の教育・研究だと考えます。

池上 本日はありがとうございました。