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歴史をつむぐ座談会 歴史を力に

環境報告書2017より

部屋に集まっている人たち

中程度の精度で自動的に生成された説明

“財産”とも呼べる歴史的資産が、北海道大学には膨大にあります。それら資産を収蔵・管理する施設が連携すると財産がもっと輝きを増すのではないか、という発想から、3館の教職員に集まって話をしていただきました。
※本座談会は2017年6月13日に実施。

大原 昌宏 Masahiro Ohara
北海道大学総合博物館 教授
北海道大学農学部助手を経て、2000年から総合博物館に勤務。2011年から教授、副館長。総合博物館に収蔵される昆虫標本の管理と研究・展示活用を担当。専門は昆虫分類、特に甲虫類のエンマムシ科を対象とする。昆虫学の他に、博物館資料保存論、博物館実習の講義を担当。土曜市民セミナー、博物館ボランティア、パラタクソノミスト養成講座、CISEネットワークなどを総合博物館に取り入れ、大学博物館を地域と市民に開かれた博物館に方向づける活動を続けてきた。

井上 高聡 Takaaki Inoue
北海道大学大学文書館 准教授
2005年の開館以来、大学文書館の館員を務めている。大学文書館では、140年以上前の前身の札幌農学校開校期の文書資料からごく最近のキャンパスのスナップショットまで、北海道大学の歴史に関する資料を幅広く収集して整理・保存・公開し、様々な問い合わせ・調査等に応じている。「北海道大学の歴史について知りたい、学びたい」というときに「大学文書館に行けば大概のことは分かる」というふうになれば良いと思っている。

城 恭子 Kyoko Jo
北海道大学附属図書館 北図書館担当
北海道大学で図書系職員として勤務。2016年から北図書館における利用者サービス業務を担当。附属図書館のミッションの1つ「豊かな情報資源と快適かつ刺激的な学習空間を提供し、自ら学び、課題解決に取り組むことのできる学生の育成を支援する」ことを実現するため、試行錯誤の日々を送っている。

1. 我が館紹介

まず、各館の紹介をお願いします。

井上 大学文書館は北海道大学の歴史に関する資料を収集するところです。主に文書資料が中心ですが、モノや書籍も収集しています。資料の柱としては2つあって、1つは“大学公文書”、大学運営のために作成もしくは取得した事務文書です。文書が事務ベースで必要なくなった後、これまでの運営や意思決定の方法を記録した歴史的な資料という意味で保存していきます。もう1つは大学関係者からいただく個人資料。たとえば学生生活や研究の進め方に関する資料を教員、卒業生、元職員、あるいはそのご家族などからいただいて、大学の公的な記録を補っていきます。それらの資料を収集・整理して保存・公開することが文書館の第一の目的になります。利用される方から「こういうことが知りたい」と言っていただければ、それを記録した資料を提供することができます。

椅子に座っている女性

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大原 総合博物館は1999年に設置され、昨年2016年にリニューアルを済ませました。使命は4つあり、1つは学術標本を保管・整理して次世代に引き継ぐこと。2番目が学術資料を使った学際的な研究を行うこと。3番目が展示やセミナーを行い、それらの普及をはかること。4番目は博物館を中心としたいろいろな研究等を創造し、それを発信することです。現在、教員は9名。ボランティアが210名いて、様々なサポートをしてくれています。基本的にはモノを集めているところで、リニューアル後は「北大のいま」というテーマで、それぞれの学部で研究しているものを展示しています。各学部の展示には黒板があり、たとえば理学部は毎週、担当者が入れ替わって情報をアップデートしてくれていて、学部展示ができたことによって、かなり学内の関係者に使ってもらえる博物館になったと思います。アルコールも飲めるカフェができましたので、議論をする場としても利用してほしいですね。

城 附属図書館は本や雑誌、さらには電子媒体のコンテンツを、北大の皆さまの教育・研究・学習のためにインフラとして整備して提供しています。大きな図書館としては本館と北図書館があります。本館は文系の建物と近い場所にあり、主に人文系の専門資料を集めていて、北図書館は学部生の学習用図書が置いてあり、1年生が勉強するための場所になっています。これ以外に、部局にきめ細かなサービスが行き届くよう、21の部局図書室があるというのが北大の特徴的なところですね。北大の図書館は1963年に「国連寄託図書館」の指定を受け、国連の出版物を収集・公開する他、世界的な問題について学生らと一緒に考えるイベントも開いています。また、「EU情報センター」という役割をもち、EUからの情報を伝える活動もしています。図書館の貴重資料室にはアイヌやシベリア関連の北方資料、北海道の開拓資料、古地図といった貴重な資料も収蔵しています。

館の抱負と課題を教えてください。

井上 大学文書館という組織ができた2005年当初は、大学で空いているスペースを間借りして資料を収蔵していたのですが、昨年4月から、以前、留学生センターとして使っていた建物1棟をいただき、収蔵庫を完備した形で活動できるようになりました。ようやく資料を整理し、資料リストを作れる環境になったので、データベース化して検索しやすいシステムを作り、資料を利用しやすくするということが第一の課題です。この建物には元々、留学生同士の交流を考えた大きいスペースがあって、今は展示ホールとして利用できています。ですから、他の大学の文書館に比べると、はるかに明るくて開放的なイメージの場所になっていますので、気軽にお越しいただければと思います。

大原 総合博物館では将来構想として2つの「キャンパスミュージアム構想」をもっています。まず「北大の研究成果を発信するネットワーク拠点になろう」という発想。じつは、昔「モデルバーン」とも呼ばれていた第2農場と水産学部の水産科学館の展示も博物館の所管で、まだ十分な整備ができていません。それと、クラーク会館2階や百年記念会館などの展示スペースもあります。それぞれの展示をきちっとしたネットワークで組んで、キャンパス全体を博物館的な発信にしようというのが、構想の1つの軸です。もう1つの軸が「資料・標本の学術資源化拠点」。研究をしたら必ずモノが出てきて、それはどこかにとっておかなければならず、その拠点に博物館がなりましょうということです。穂別で恐竜の化石が発掘されましたが、恐竜を1体見つけると、かなりのスペースが必要になります。欧米だと大きなスタジアムを造る時に地下ピットが恐竜置き場になっていると聞いたことがあります。北大でも機会があれば恐竜置き場を造ってもらえたら、と思っています。あとは生物標本、乾燥標本は虫に食べられたりカビが生えたりすると良くないので、空調のきちんとした収蔵庫が必要なんですけれど、博物館は昭和4年に建てられた古いものなのでなかなかうまくいかず、収蔵庫問題の解決はまだ先といったところです。

椅子に座るスーツを着た男性

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城 図書館員はそれぞれ別のことを言うと思うんですけれども、私なりに考える課題ということで述べさせていただきます。附属図書館は知の集積の拠点としての機能を果たしてきたわけですけれど、コンテンツを守り、それを生かしつつ、学生・教職員、さらに学外の方に対して、より刺激的な場、古いものから新しいイノベーションが生まれる場としても機能していくことが求められていると思います。特に学生に対しては、留学・国際協力・ボランティアといった課外活動の経験を他の学生とシェアして、互いに刺激を与え合って、みんながより高まっていく場にもできるのではないかと。ただ、たとえば留学を後押しする企画を図書館の事業としてどこまでやっていくのかは、人によって意見が様々で、図書館内でコミュニケーションをとっていくことが必要かもしれません。図書館以外にも北大には様々な学習支援組織がありますので、どんな支援をしているか情報を集約したポータルサイトがあって、学生が自学自習に活用できるようにできたらいいなと考えています。

2. 歴史を見つめる意義

3館とも歴史資産を守り公開しています。その意義をどう考えますか?

大原 博物館には「北大の歴史」という歴史展示のコーナーが4つあります。クラーク博士から、ノーベル賞を受賞された鈴木章先生まで。新入生が毎年入学してきますけれど、自分の大学の歴史を知らないと、自分のアイデンティティを形成しにくくなってしまい、それなりに困ると思うんですね。そういう意味では、教員の責任としては繰り返し大学の歴史は教えないといけない。どうして今こういう教育を受けられるのか、というのも先輩たちが作ってきてくれた知財とキャンパスがあってこそですから。また、私は昆虫学を研究しているんですけれど、昆虫標本は、針の長さも針を指す場所も脚の広げ方も決まっている。これは歴史で、過去の昆虫学者がさんざん苦労して「この形が一番いい」とたどり着いた知識の集大成なんですよね。昆虫が何種いるかも、今まで200年以上ずっと、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの人たちが種類を記載してきたからわかるわけで、まさに歴史。自分の知識を位置づけるためには、バックグラウンドに歴史がなくてはならないですよね。

屋内, 天井, テーブル, 窓 が含まれている画像

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総合博物館 古代生物学標本展示室

城 グーグル・スカラーのサイトに「巨人の肩の上に立つ」という言葉が書かれていますけれども、その言葉に尽きるのかなと思います。先人たちの業績や先行研究などを巨人に喩えて、それらの積み重ねの上に新たな知見や視座が開かれる。図書館の意義というのはそういうところにあって、古い資料、現物そのものが持っている力はやっぱり大きい。触った時の質感とか、匂いとか、目で見た感じとか、そのモノがあることのリアリティは、電子化されたものでは伝えきれないはずです。それが博物館や文書館がモノを大切にすることと通じるのではないでしょうか。

井上 現在を懐疑的に見るために、歴史が必要という部分があると思います。古いモノがあって、「それが本当だろうか?」「他の見方もできるんじゃないか?」と考えることができる。大学の学問や科学は、ものを懐疑的に見ることが視点の基本になり、その視点の根本になるのが古いモノでありうるのではないかと僕は考えます。

3. 夢の3館連携企画

3館が連携したら「こんなことができる」「こんなことがしたい」という話をしてください。

大原 大きな収蔵庫をみんなで共有したいですね。きちんとした収蔵庫を持っていると、個人で貴重な標本を持っている方が「スペースを借りたい」と言ってくることもあるそうで、貸しスペースで収益も上げられますし。先ほど図書が電子化されているという話がありましたが、紙とかインクとか書いた跡はオリジナルでなければ解析できない。現在ではできないものを過去には作っていたこともあって、昔の技術を取り出すには昔のモノを見るしかない。ですから大きな収蔵庫が欲しいですね。連携について言うと、3館はモノの貸し借りみたいなことは時々やっているけれど、常に意見交換をするシステムになっていない。学内全体で言うと、苫小牧の研究林や厚岸の臨海実験所にも展示室があり、植物園にも貴重な資料があり、個別の連携はあってもシステムとしての連携はできていないので、きちっと大学の中で企画展示資料管理委員会を作ったほうがいいと思いますね。大学本部主導か何かできちっと展示室を把握して、学術標本の所在も把握していきたい。

モダンなキッチン

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大学文書館展示ホール

井上 北大は2026年が150周年で、その時にこの3館が何かをやるという話になると思うんですよね。札幌農学校以来の歴史を考えた場合、たとえばクラーク博士は着任した後に「図書館を充実させなさい」「標本を揃えなさい」と、標本室を設けて学生たちの学習環境を整えている。北大は学問につながる実物を使うことについて、開校当初からかなり重視している。そして、大学の歴史を大事にすることに非常に理解があると思います。それは「自分たちの歴史を大事にする」という共通認識がすごくあるからだと思うんですね。この3館はそういう部分を担いうるところですから、いろいろな連携の仕方がありそうですよね。たとえば札幌農学校の2期生で、その後教授になった宮部金吾という植物学者に関する資料は、博物館には植物標本、大学文書館には彼の元に集まってきた書簡、図書館には旧蔵書が宮部文庫という形である。3館がそれぞれ持ち寄ると、宮部の業績を検証する展示が可能。ただ、文書館の内情を話すと、専任の職員が2人きりで資料の出納と整理に忙殺されているので、新たな企画に参加するのはけっこうつらい部分がある。だから、3館で連携するということをどこかにアピールして、それなりの措置、具体的にはお金と人をつけてもらうことが必要かなと思います。

城 夢ということで言わせていただくと、北大の外にアウトリーチ拠点を作ったらどうかと思っています。東京駅の前に「KITTE(キッテ)」という日本郵便が手がける商業ビルがあり、その中に東大のミュージアムがあって、お買物のついでに無料で博物館に入れるんです。膨大な量の骨格標本や博物標本が、帝大時代から使われていた展示ケース等に陳列されていて、ミュージアムショップもけっこう充実していて楽しい。そういうふうに、学外に北大をアピールできるものを置くのはいいなと思っています。実現するなら、まずは札幌駅か大通公園あたりで北大のアピールをしていきたいですね。その他、付け加えたいことなどありませんか?

椅子に座るドレスを着た女性

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文字の書かれた紙

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ヤエンコロアイヌ文書(レプリカ・附属図書館所蔵)

大原 急がなければならないのは古河講堂のリニューアル。今、北大一危ない建物になっていますが、改修にはすごくお金がかかるでしょう。URAステーションの協力も得て企業からの協賛をお願いし、企業の名前を付けたネーミングライツの展示施設に変えることも考えられると思います。それと、もう1つ夢なんですけれど、図書館のデリバリーシステムと博物館のモノを組み合わせて、教材のデリバリーができないかと。札幌市内では中央図書館から小・中学校に本をデリバリーするシステムがあって、それを利用してヒグマの標本を授業のために貸し出すようなこともしているんですね。北大の図書館はそれぞれの部局にいいネットワークがあり、博物館はモノを持っているけれど、来てもらわないと見てもらえない。連携して、たとえば博物館標本を教材として学生にデリバリーできるシステムができれば、とても魅力的だと思いますね。

井上 キャンパスを平面的に見ると、博物館、文書館、図書館がある地域には、古河講堂も農学部も築100年を超える旧昆虫学及養蚕学教室もある。観光資源として見た場合、一番充実感があるのはこの南の地域。サクシュコトニ川の川辺は、昔はアイヌの祖先にあたる人たちが住んでいて、その遺跡もあり、土を掘るともっと昔の歴史が出てくる。そういうところで大学が成立していて、ノーベル賞を受賞するような最新の研究をしている。歴史がキャンパス自体に重ねられていて、日本の大学の中でも稀有な環境。そういうことも連携の意味合いに乗せていくのはおもしろいのかなと思います。これから大学の個性が必要になる時代でしょうから、歴史の長いスパンは大学のアピールにもなりますよね。新しく入ってくる学生たちに「こんないい環境なんだよ」と言える資源をもっているということは、もっと利用していくといいかなと思います。

本日はありがとうございました。

開館情報

  • いずれも入館無料
  • 大学行事などで臨時開館・休館の場合があります。

北海道大学総合博物館

  • 開館時間:10:00~17:00
    ※6~10月の金曜のみ10:00~21:00
  • 休館日:月曜日、12月28日~1月4日
    ※月曜が祝日の場合は連休明けの平日が休館日。

北海道大学大学文書館

  • 開館時間:9:30~16:30
  • 休館日:土・日曜日、祝日、12月29日~1月3日

北海道大学附属図書館

(本館 開架閲覧室・北図書館 2~4階閲覧室)

  • 開館時間:平日8:00~22:00(学外の方は9:00~)土・日・祝日9:00~19:00
    ※短縮開館日があります。
  • 休館日:12月28日~1月3日、大学祭開催期間の土日(6月上旬)、全学停電日(9月)、大学入試センター試験日(1月中旬)
    ※詳しくは附属図書館のホームページでご確認ください。