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キャンパス座談会 これからのサステイナブルキャンパスへ

環境報告書2016より

Place has a Mission

北海道大学は2026年に創起150年を迎えます。そこからさらに150年先も考えた時、キャンパスはどうあってほしいのか。−2016年6月、リニューアルオープンを間近に控えた北海道大学博物館の1室に、教職員4人が集まり、それぞれの立場からサステイナブルキャンパスへの想いを語り合いました。

山本 順司 Yamamoto Junji

北海道大学総合博物館 准教授

地球内部を化学的に診ることで太陽系の形成過程にせまる研究を続けている。東日本大震災を機に体験型学習システムの構築を志して全国の大学博物館に応募した結果、2012年、本学に採用される。学内外の方々が心地よく過ごし、刺激を与え合える博物館を創るため、展示リニューアルに邁進している。

小篠 隆生 OTazkaasoa Takao

北海道大学工学研究院 准教授

東京都生まれ。北海道大学工学部建築工学科卒業。博士(工学)。卒業後10年間、民間で建築設計に従事した後、1993年より本学助手、2006年助教授、2010年よりサステイナブルキャンパス推進本部部門長を兼務。専門はキャンパス計画、都市デザイン、建築計画、建築設計。手がけた建築作品には、北海道大学ファカルティハウス、遠友学舎(日本建築学会北海道建築賞)、東川小学校・地域交流センター(北海道赤レンガ建築奨励賞)などがある。

長堀 紀子 Nagahori Noriko

北海道大学人材育成本部女性研究者支援室 特任准教授

北海道大学大学院理学研究科・博士(理学)。学生時代より生体高分子の機能に関する研究に没頭していたが、研究と実社会両方に関わりたいとの思いから、行政に転職し2年間産学連携に携わる。人が能力を発揮できる環境や仕組みに興味を持ち、現在“女性が直面しやすい課題”を切り口に、研究者のキャリア開発や多様な人材の能力発揮を支える研究環境構築に取り組む。

進行役

武村 理雪 Riyuki Takemura

北海道大学国際本部

シニア・コーディネーター2006年に「持続可能な開発」国際戦略本部のプロジェクトプランナーとして北海道大学人生を開始。以後、「大学の国際化」と「持続可能な社会づくり」が交差する業務に携わる。現在、サステナビリティ・ウィーク事務局とスーパーグローバル大学創成事業のHUCI統括事務室を担っている。

1 北大がサステイナブルになるために。

山本 サステイナビリティは、やはり環境についてですか?

小篠 国連がサステイナビリティと言い出して、環境だけでなく社会もジェンダーも経済も含めて言われるようになっていきました。

長堀 大学にとっては、研究と教育のサステイナビリティが大事ですよね。学生が成長し、教員が成果を出し続けるためのハード面の環境やソフト面での仕組み。

山本 私の専門は地学で、この学問は滅亡寸前と言われます。もう高校では文系でしか地学を教えないんですよね。

小篠 大学では都市地理学という分野があり、これは工学部で教えている都市計画と関係がものすごく深い。しかし工学部では、それを専門に教える教員も分野もありません。

山本 学問ってニーズなんですよね。必要だと思われないと衰退していくので、きちんと伝える努力が大切。

小篠 ニーズを創ることも大事ですよね。「地学は必要だ」と情報発信する。社会のニーズを汲み取ると同時に、大学が自らニーズを発信していく。

武村 地学はニーズの掘り起こしをする余地はあるんですか?

山本 防災とか。これからは宇宙開発や海底資源探査も一層注目されるでしょう。場がないと研究できないので、大学のサステイナビリティは大事なのですが、いつも「何年間?」と気になるんです。地学の議論で1,000年は短期間ですから。

武村 1,000年でも短いんですか?

山本 私の場合、単位は100万年をよく使います。長い歴史から、多様性が必要ということも学べます。固定した価値観だけだと生存適応できないので、いろいろな種を学内にまいておくことも大切ですね。

小篠 大学の役割として、流行り廃りで社会が捨ててきた価値観を持ち続けていくことも大事です。北大で言えば150年近くも一貫して持ち続けてきた価値観がありますね。

武村 「これは大事だ」と主体的に持ち続けてきたのか……。

小篠 一本筋は通していたと思います。大学と名のつくところだったらどこでも「建学の精神」が通底していますよね。武村:北大がこれから150年、いや15,000年生き延びていくために、守らなくてはいけないものは何でしょう?

長堀 人材の多様性と、多様な人が活躍できる環境です。女性研究者との関係で言うと「学内に搾乳する場所がない、体調不良時の休憩室がない」となると、それは「女性研究者が出産することは望まれていない」というメッセージになります。物理的な環境が人のモチベーションをコントロールする側面はあるので、大学が多様な人材に活躍してほしいのであれば、その人たちが「ウェルカム」を感じられるデザインが大事だと思います。

武村 ウェルカム感が漂うデザイン?

長堀 ハードもそうですし仕組みの面でも同様です。たとえば出産の時に「任期付き教員の場合、任期は延長されません」だと「この組織では出産は歓迎されていない」と感じるでしょう。北大では平成19年から任期付き教員の出産にかかわる任期の更新が認められていますが。

小篠 建築計画学や社会学の中に“居場所というキーワードがあります。「ここにいていいんだよ」と安心感を与えてくれる場所がある人とない人とでは全然違う。安心して自分の能力を発揮できるかどうかで成果は圧倒的に違うでしょうから、大学にも誰もが自分の居場所と言える状況をつくっていく必要があると思います。

山本 居場所以前に、まず入れるかどうか。その組織に入ればパスが得られるとしても、入口にバリアがあったら困る。博物館は誰でも入れるのに、まず大学の門がバリアで、博物館に入るときもバリアが物理的にも心理的にもあると思います。

武村 「怖~い」とか「恐竜いるかも?」みたいなバリア?

山本 そういうのもあるし、足が不自由な人には傾斜がきついとか。入館無料ですが、もし有料なら経済的なバリアになる。

小篠 過去の文献などを読んでみると、北大が農学校だった頃は、クラーク先生を筆頭とする外国人に影響を受けていて、博愛主義、「誰でも来ていいよ」という考え方があった。今はそういうのが抜けている気がしますね。

武村 北大がサステイナブルになるために他に何か?

山本 使えるキャンパスになればいいと思います。いろんな枝葉が生えていて、それらが使える種になっている。

武村 種をまいて、枝葉を生やしておく?

山本 博物館の収蔵品の中には、古い時代の物が多くあります。たとえばワカメやコンブの標本。それが100年前の海魚環境を知る資料になっている。北大には種を置いておける土壌があって、残してきた実績がありますね。

長堀 蓄積が大事なのは学問そのものも同じですよね。いろいろな知を積み重ね、たくさん集まった後で、新しい価値が生まれるかもしれない。

山本 タコツボ研究室が多いですけれど、それがいつか混じってルツボになる。その場を作っておけばいいと思うんです。

長堀 混じるための仕掛けがいりますよね。

小篠 触媒の役割を果たす人が来ないと、違うものは混じっていかない。融合や創造を起こすには、人が来やすい状態、結局、居場所づくりが大切という話になるのかもしれません。

2 北大は地域と一体となっているか?

長堀 触媒の居場所は物理的環境と文化の両面で必要ですが、今、北大キャンパスは触媒機能を果たす人が活躍できる状態になっているでしょうか?

小篠 キャンパスは「都市のようだ」と言われます。北大だったら学生と教職員合わせて22,000~23,000人くらいの人々がいて、その数は北海道の中都市くらい。では、都市みたいな状況があるかと言うと、そのような場所にはなっていないと思います。都市は多様性を持っていますよね。多価値で多文化でそれが魅力につながっている。大学もいろいろな価値観が並立して、それらが交差する状態にすることが大事ですよね。

武村 都市より大学の方が多様性や多様な価値観がある気がするんですよね。都市だと妖怪ウォッチが流行れば、みんなそれに夢中だけれど、北大はみんながすばらしく違う方向を向いている。

小篠 ただ、それが魅力につながらない。普段はそれぞれ別のことをやっていてかまわないけれども、時には「大学のために一緒に何かやっていこうよ」と考えなきゃいけないと思う。それで出てくるのは、たとえば『北海道大学近未来戦略150』。

武村 ここに「構成員が誇りと充実感を持って使命を遂行できる基盤を整備し」と書いてあるんですよね。「学生、教職員が健康で快適に過ごせる安心・安全なキャンパスの整備を行う」とか「広大なキャンパスと多様な先端的知識を利活用し、地域と一体となって国や社会の在り方を探索し、持続可能な環境と社会形成のための提言や情報発信を行う」とも書いてある。

小篠 キャンパスがJR札幌駅から数分の都心に位置する状況を考えると、北大は地域と一体となって地域に尽くすことが重要だと思いますが、現状はどうでしょうか?

山本:連携は不十分だと思います。武村:ある方がこんなことを言っていました。「北海道大学は世界の人たちと連携することに役割を見出して、札幌市や北海道とのつながりは他の大学にやっていただく形に役割分担しないと」と。

小篠 でも、自分が住んでいる街にはもっと良くなってもらいたいから「お手伝いできるのだったらしてあげたい」と思うのが人情じゃないですか。北大にしかできないことはヨーロッパでもアメリカでもなく、やっぱり北海道の中に存在していて、それを研究して成果を出すことが、結果的に世界にも通用するトップランナーとしての知恵を創造すると考えられます。

長堀 大学の価値をどこに見出して、どうやってリソースを配分し投入するかは難しいですね。

小篠 じつは北大は広大な演習林や臨海試験場を持っていて、それは地域と一体化して存在している。そういうリソースをこれからどうするのか、もっと真剣に考えてもいいと思います。

武村 今の経営は6年間というサイクルで回っていますよね。100万年サイクルの視点をもつ人から、何かご意見は?

山本 6年という期間があって目標があって達成度を見るのはいいんですけれども、期ごとにきちっと終わらせると次に続かないので、絶滅しないで次に生かせられればな、と思います。

小篠 継続させる必要があることは、継続的に考え、実行していくことが重要ということですね。

山本 プロジェクトが一旦終わって人がいなくなると、いろいろな知恵が途切れてしまう。人に結びつけられているものは、人がいなくなって無価値になるのはもったいない。

小篠 サステイナビリティには経済的な持続可能性も重要ですね。北大は昨年度までの12年間、建築物やインフラストラクチャーを建てたり改修したりするのに、光熱水料を省いて年平均で40億円ぐらい使っている。23,000人規模の組織といったら、相当な大企業ですが、どんなに敏腕な経営者がいて業績をあげているとしても、毎年40億の設備投資を12年もやり続けたりはしない。そんな会社は世の中にない。北大は国立大学法人であり民間企業とは違うとしても、このような設備投資をずっと続けてきたということは、相当に資産を蓄積してきたはずです。

武村 では、特殊なものがあるのかというと……。

小篠 140年かけて税金を投入して設備投資をしてきたわけだから「自分たちが所有する環境もキャンパスも建築にも価値がある」と僕らが言わないといけない。ハードの資産を持ち、人的資産を持ち、プロダクトとしての研究成果を持っているわけです。資産を持つ者の社会に対する役割として、地域社会に還元することを考えなければいけません。企業はメセナとかCSRという形で社会的責任を果たそうとするわけでしょ?大学は教育をして人材を輩出しているからもう社会的責任は果たしているという考え方もあるけれど、地域との連携で言えば「大学も地域もお金を出して、もっといい街を創ろうよ」とやっていい。

武村 それは研究者の仕事なんですかね?

小篠 大学の仕事。それを研究テーマにできる人がいたら研究者の仕事。

武村 アメリカでは「教育と研究はファカルティー(教員職)の仕事で、大学の経営はアドミニストレーター(事務職)の仕事」と言いますよね。

小篠 でも、アドミ側にも研究実績がある人がいる。

武村 博物館が地域に向けてオープンするとか、キャンパスにもっと市民を呼ぼうとするのに「それがファカルティーの仕事でいいのかな?」と思うんですけれど、どうですか?

山本 我々は博物館の仕事をしたらホメられるんですけれど、学部の人間でもある。たとえば理学部や農学部の研究者であって、そちらで実績を出さないと次のステップがない。だから2倍働かないといけないんですよ。

小篠 教員職と事務職というかたちで、あまりにも二極分化した状況が変わる必要があるのでしょう。両者の間に双方の役割を同時に担った第三極的な人材を定着させる仕組みが必要だと思います。

武村 その第三極は包括的な動きを期待されるんですかね?

小篠 そう。たとえば北大の外に研究所を作って、他の大学の先生も来られるようにして、成果を地域に還元する。

武村 そうすると、最初に出た“居場所”は北海道大学の中で考えていてもダメだということでしょうか?

小篠 大学の中と外、両方に必要なんだと思います。

武村 新しい社会の在り方を率先して示していくには、まず大学の中に“あるべき姿”を創り、それを地域にも広げていく、と。

長堀 地域に関する研究を、大学の外に研究所を作り、自治体を交えて共同でやるとしたら、現場を知る人と研究を知る人で役割を補い合えるので効率が良いですね。その地域に魅力がなく大学だけが魅力的であり続けることは不可能だと思うんです。地域の魅力と大学の魅力は互いに関係していますから。

武村 「でも誰がやるの?」という問題がありますよね?

小篠 「大学がやらなきゃいけない」と大学が思うかどうかがポイントですよね。アメリカでは1980年代から大学が都市開発に動いている。たとえばニューヨークの北にあるコロンビア大学。当時は周辺の治安が悪くそれでは、「学生が来ないんじゃない?」と、まわりの再開発を大学が出資しながらやった。

武村 「札幌でできるといいな」というテーマは、保育園不足の解決や家族の介護に携わる教職員の生活支援につながる開発でしょうかね。

3 北大に創り出すべきものは?

武村 では最後に「北大キャンパスに創り出したほうがいいもの」あるいは「追い求めるべきもの」をあげていきましょう。

山本 居場所。リニューアルオープンする博物館は「知の交差点」というコンセプトがあります。どの学部にも属していないし、みんなが適度なアウェー感をもって過ごせますから、いろんな人が居場所を求めて来てほしい。朝8時半から夜の10時まで開いているカフェはサロンのように使えます。土日もきれいなトイレが使えますから、学外の方もぜひ活用していただきたいです。

長堀 英語にも対応できる保育園とアフタースクールがあると良いですね。海外から来た研究者や留学生が「子どもを日中見てくれるところがなく、大学に来られない」というケースがあります。世界の研究者や学生を引き付ける研究環境をつくるという意味でぜひ。

武村 私が欲しいのは最低ラインのルール。どんどんメンバーが多様化する中で、多分摩擦が起こってくる。だから、たとえば「火はダメ」でも「それ以外は何でもO.K.」みたいな。そうしたら自由な発想でキャンパスを使ってクリエイティブなことができますよね。

小篠 僕は学生だけでなく、教職員も外国人のゲストも居住できる居住施設の重要性を感じます。キャンパス計画のことで外国の先生と話すと「宿泊施設はないのか?」と必ず聞かれて、寮があると言っても「それじゃダメだね」と。やっぱり時間と場所を共有できる場が大学の中に必要ですよね。そういう意味では、寮付きの「新渡戸カレッジ」。日本人学生と留学生がいて、フェローが教えに来て、宿泊もできる。世代も国籍もワイドな中で、教員と学生たちが一緒に何かやれる場所。教室で教えることじゃないことはたくさんあるから、そこで教える。

武村 でも、うちは南極観測隊もいるわけだし、テントを張ったらいいのよ、って思っちゃうけれど、どうなんでしょう?

小篠 まあ大人数でキャンプサイトをつくるのもおもしろいかもしれないけれど。大学キャンパスが避難施設になるという視点も重要でしょうね。

武村 ある海外の先生が「日本の教育システムの中で、売りにすべきなのはゼミだ」と言っていたんです。「苦楽を共にし、飲食を共にし、教え教えられ成長していく場。これを誇りとして、もっと前面に出して世界に売れ」と。ケンブリッジのカレッジでは教員と学生の個別指導があるらしいですが、それに匹敵する人生の学びの場が北大にもあるんですよね。

小篠 北大だけじゃなく、旧制高校と言われていた7つのナンバースクールでは少人数教育がされていたんですよ。人間教育をやろうと思ったら、フェース・トゥー・フェースで体験を一緒にやらないと無理ですよね。

武村 それが生かされていけば、インターネット教育に負けない教育になるんですね。日本にしかない、北海道でしかできない、リアルな教育。

小篠 そのためにキャンパスをちゃんと整備しておくと。そういうことですね。

北海道大学総合博物館が2016年7月にリニューアルオープン!

本学の12学部を紹介する展示や博物館活動のバックヤードが見られるミュージアムラボを新設。カフェやショップも設け、学内外の方々にこれまで以上に親しまれる場所となることを目指しています。

  • 開館時間:10時~17時(6月~10月の金曜日は10時~21時)
  • 入館無料
  • 休館日:月曜日・年末年始(12月28日~1月4日)
  • 月曜日が祝日の場合は開館し、連休明けの平日が休館日となります。大学行事等で臨時閉館・休館の場合があります

ミュージアムカフェぽらす

  • 営業時間:8時30分~22時
  • 定休日:同博物館の休館日に準じます。