新着情報

山口総長にうかがいました-環境報告書2016より

環境報告書2016より

法人化された大学におけるキャンパスマスタープランとは何であるのか、徹底的に議論してほしい。

北海道大学総長 山口 佳三 Keizo Yamaguchi

反省が必要な、これまでのキャンパスマスタープラン。

北海道大学は今、新しいキャンパスマスタープランをつくる時期にあります。私はまず、法人化された大学におけるキャンパスマスタープランとは何であるのか、徹底的に議論してほしいと思っています。

1996年に策定された「キャンパスマスタープラン96」は、ゾーニングを考え、北大キャンパスの将来像を議論したという意味では画期的でした。第二農場であった北キャンパスが、研究のゾーンとしても位置づけられ、国の補助事業に応募し採択された創成科学共同研究機構やFMI (フード&メディカルイノベーションセンター)などが建てられました。しかし、キャンパスマスタープランで定めていたようなインフラは先行整備されておらず、ゾーニングと実際の道路整備が食い違うなど、思い描いていた計画が進んでいない状況が続いています。

次に、2007年3月策定の「キャンパスマスタープラン2006」。2006年は国立大学が法人化(2004年)されてから日が浅く、このプランの考え方は、自助努力、自己責任が求められる法人化後の大学に合っていません。今、反省すべきは、プランのメインであった交通計画が実現できていないこと。なぜ頓挫しているのかをきちんと点検すべきです。

ステークホルダーとは、学内の人間だけなのか?

ひとつ思うのは、「キャンパスマスタープラン2006」が実現していないのは、キャンパス内で閉じた議論しかしなかったからではないでしょうか。この『環境報告書』にも掲載されている「ステークホルダーミーティング」は教職員を集めて開催していますが、“ステークホルダー”は学内の人間だけで済むのでしょうか。本学の札幌キャンパスが JR札幌駅のすぐそばにある環境を考慮すれば、北大内で満足して作った計画では意味がない。自分たちだけで考え、身勝手な論理でプランをつくる。そうであってはならないと認識すべきでしょう。

昨年、北海道の経済産業局が開いた地域研究会の報告を聞いて、私自身、勉強できたことがあります。現在、この札幌キャンパスの建物は、高度地区規制を受け、絶対高さ(33m)を超えないように揃えられています。しかし、札幌市の地域計画に合わせることによって規制緩和を受けられ、通常より高いものを建てることも可能になる。また、国立大学法人に関する法律が変わり、「土地利用についての緩和」が平成29年4月から施行される見込み。こういう状況からも、やはり札幌市や北海道との話し合いは大切です。

現在キャンパスにあるクラーク会館、百年記念会館、遠友学舎。これらは同窓会中心に募った寄付で建てられたもので、年々老朽化が進んでいます。特にクラーク会館は、建設当時にあった宿泊施設は使えなくなり、その他の施設も有効利用できず、将来どうするかは大きな問題です。予算を国に求めるのが難しい中で、札幌市と協力し、コンベンションホールや宿泊施設を含めた建物が造れるかといった議論もあります。この他、故障しがちな学内循環バスは、財政的に代替車の確保ができず、バスなど公共交通機関をキャンパスに通したらどうかという話があります。いずれもひとつの解決策かもしれませんが、札幌市と話し合わなければ、現実にはならないでしょう。このようなことからも、もうキャンパスの将来像を大学自らの計画だけで進める時代ではないだろうと思います。

施設部も各学部も意識の変革を。

大学の法人化に伴い、事務局施設部の役割も変わっているはずです。文部科学省に要望して新しい建物を建てることが主な仕事ではなく、現在一番大切な仕事は建物の維持管理、さらにはキャンパス全体の維持管理。実際、サステイナブルキャンパスを目指して良い方向性で議論し、ずいぶん知恵を絞って保全に取り組んでいると思います。今後、法人化した中での自分たちの役割に関し勉強会を行うなどして、時代に合った活動を進めてほしいと思います。

ものを建てるにも、維持管理にしても、資金をどうするかは過去の国立大学と違う話になります。もう待っていても国から予算は下りてきません。キャンパスマスタープランにかかわる委員会では、真剣に将来像を考え、学内の啓発をすることも極めて大切な役割だと思います。

かつてはそれぞれの部局が自分の将来構想の上に計画を出せましたが、今や1部局単位での概算要求は否定されています。「大学全体として何を考え、そのためにこれは必要」という全体像をもって予算獲得の交渉を文部科学省とする形に変わってきているのです。各部局の人たちは「私たちのいる所は自分たちのもの」という意識があるかもしれませんが、それは国立大学時代の考え方で、これからはスペース・チャージの問題を考えなければなりません。この緑豊かなキャンパスを大学として維持していくためにはお金が必要で、それぞれの部局で「自分たちも用意しなければならない」という意識をもつことが重要。そういう発想を求めるキャンペーンも、当然キャンパスマスタープランの中には入るべきです。

学生の皆さんにも考えてほしい。

学内の人間だけをステークホルダーととらえていいのかという話は、学生の皆さんにも考えてほしいと思います。札幌キャンパスは観光客に対しても市民の方に対してもオープンです。現実の問題として大きいのは、自転車。量が多いだけでなく、マナーが悪すぎて、歩行者を巻き込みかねない。それは真剣に考えないといけないことです。

キャンパスを維持管理していくのに、学生も大切な力になるでしょう。ですから、「学生に口出しをさせず、大学で決めていく」ということは決してありません。キャンパスマスタープラン策定に関わっていくことに対し、学生の皆さんにも意識をもってもらいたいと思います。

ただし、これはやはり経営問題です。「資金をどうするか」に直結して議論したものでなければ、絵に描いた餅でしかない。それを踏まえた上で、このキャンパスをどう維持発展させるか知恵を出し合ったものが、本当のキャンパスマスタープランであろうと思います。