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北海道大学の基本理念とサステイナビリティ学研究 -地球環境科学研究院 山中 康裕先生 ・北方生物圏フィールド科学センター 荒木 肇先生 ・大学院文学研究科 宮内 泰介先生

環境報告書2011より

本学は、日本初の近代的大学として1876年(明治9年)に札幌農学校として設立されました。日本の版図に新たに加わった北海道の開拓に資する研究と、開拓の指導者を育成する最高教育機関として、帝国大学、新制大学と歩みを続ける中で、「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」という教育研究の基本理念が培われてきました。そしてこれらは、2003年、北海道大学評議会において「本学の基本理念および長期目標」として定式化されました。
「フロンティア精神」から始まる4つの基本理念は、本学がすすめるサステイナブルキャンパス構築の基本理念でもあります。本学のサステイナビリティ学研究は今、この「基本理念」に照らした時どう映るのか。この特集では環境学、農学、社会学の各分野で活躍する本学研究者の取り組みを通して検証します。

山の景色

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北海道大学雨龍研究林
本学には、北海道内の天塩、中川、雨龍、札幌、苫小牧、檜山、道外の和歌山に7つの研究林があります。その総面積はおよそ7万ha。中でも道北地域にある天塩研究林 (約22,000ha)、中川研究林 (19,000ha)、雨龍研究林 (約24,000ha) の3つの研究林は広大で、全体の9割以上を占めています。大学の研究林としては世界でも類を見ない規模の森林の敷地面積を持ちながらも、木々の1本1本が管理されています。ここでは、地球規模の環境変動等、この面積だからこそ可能な先端的な研究を行っています。

本学の4つの基本理念(抄)

  • フロンティア精神 frontier spirit
    フロンティア精神とは、それぞれの時代の課題を引き受け、敢然として新しい道を切り拓いていくべきとする理想主義を意味する。クラーク博士が唱えた“lofty ambition”(高邁なる大志)という言辞を端緒として、世紀を超えて北海道大学を揺るぎなく支えてきた基本理念である。人類的課題に応え得る研究を不断に展開することが、現代におけるフロンティア精神の発現である。北海道大学は、人類史的課題に応え得る世界水準の研究の推進を目指す。
  • 国際性の涵養 global perspectives
    札幌農学校は、設立当初から多様な世界にその精神を開いていた。それ以来、国際性の涵養という理念が、さまざまな形で受け継がれている。自文化の自覚に裏付けられた異文化理解能力を養い、国際的に活躍できる人材を育成する。学生および教職員の国際性を涵養し、海外留学・研修の機会を拡大するとともに、外国人研究者・留学生の受け入れを積極的に推進し、世界の人々との文化的・社会的交流の促進を目指す。
  • 全人教育 all-round education
    札幌農学校は、豊かな人間性と高い知性を兼ね備え、広い教養を身につけた人間の育成を図った。北海道大学における全人教育の理念は、総合的判断力と高い識見を備えた人材育成の基盤としての教養教育を重視する伝統として継承されている。この理念をさらに発展させるために、幅広い人間教育を進め、自由・自主独立の精神の涵養と自律的個の確立を図るとともに、人権を尊重し、社会的要請に的確に対応しうる基盤的能力の育成を目指す。
  • 実学の重視 practical learning
    実学の重視という理念は、現実世界と一体となった普遍的学問の創造としての研究と、応用や実用化を重んじ研究成果の社会還元を重視するという意味である。北海道大学は、実学重視の理念の普遍的かつ今日的意義を追求し、現実世界と一体となった普遍的真理や、北海道の特性を生かした学問の創造を推進するとともに、研究成果を北海道、さらに日本、世界に還元する。あわせて高度な専門家および職業人の養成ならびに社会人教育を充実することを目指す。

環境は現代の〈実学〉─地球環境科学研究院の実践環境科学

環境科学のフロンティアを求めて地球規模の課題を見据え、地域の課題に取り組む

本学の環境研究の中心となっている地球環境科学研究院。 グローバルCOE プログラム「統合フィールド環境科学の教育拠点形成」を実施しています。山中康裕教授は、実践環境科学コースを立ち上げ、地球環境科学研究院の教育、研究を行っています。

スーツを着た男性

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地球環境科学研究院 教授 山中 康裕
1964年生まれ、東京都出身。
東京大学理学部卒。東京大学気候システム研究センターで海洋物質循環のモデリングの研究で博士号取得。2008年よりグローバル COE 拠点リーダー。2012年よりサステイナビリティ学教育研究センター長。

環境科学のクラーク博士を目指す

北海道大学の基本理念は、「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」です。私たちの地球環境科学研究院は、まさに北海道大学の基本理念に基づいて活動をすすめています。また、これは私たちが取り組むグローバルCOE プログラム「統合フィールド環境科学の教育研究拠点形成」の理念でもあります。
「フロンティア精神」「国際性の涵養」では、例えば、地球温暖化防止に向けて、シベリア、モンゴル、インドネシアで「100年観測網」を構築する取り組みをしています。
シベリアは永久凍土があり、モンゴルには森林草原境界域、インドネシアには熱帯雨林と、地球規模の環境問題を考える際に、それぞれ重要な地域です。気候変動を調査するため、これらの国々に私たちは観測に向かうわけですが、観測する側とされる側という関係を100年後も保てるかというと、その保障はないわけです。一方、環境問題は100年単位の取り組みです。こうしたことから、現地の方々が100年にわたって観測を続けていくシステムをそれぞれの国に構築することが、この「100年観測網」プロジェクトの目的となっています。こう紹介すると、わずか数年の取り組みで100年にもわたる観測態勢が構築できるのですか、と聞かれます。
今から130年前に、アメリカ・マサチューセッツからウィリアム・クラーク先生が来道し、北大の前身である札幌農学校で教鞭を執りました。クラーク先生の精神は、今もこの学校に息づいています。ところが、そのクラーク先生の在任期間はわずか8カ月でした。このことは、わずかな期間であっても、100年も続く活動を残すことができることを示しています。
私たちは、このプロジェクトの中で、具体的な観測網を整備するというよりも、観測を担う人をつくるシステムを構築したいですね。それぞれの地域で観測を担う技術と志を持った人を育成し、その方が子ども世代に技術と志を伝えていくシステムです。つまり、私たちがそれぞれの地域で環境分野のクラーク博士を目指しているということです。

世界を招く広大なフィールド

橋の上に立っている男性

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地球環境科学研究院屋上のソーラーパネル前に立つ山中教授

私たちの地球環境科学研究院では、海外からの留学生を積極的に受け入れています。5年前にドクターコースの留学生は19%でしたが、今は34%、3人に1人が海外からの留学生なのです。
環境分野では広大なフィールドを持っていることが、北海道大学の世界へのアピールになっています。天塩、中川、雨龍に広がる研究林は全国一ですし、その広がりは東京23区よりも広く、国土面積の500分の1に相当します。
この研究フィールドを舞台にして、私たちは毎年、海外からの研究者や学生を招いてサマースクールを開催しています。今年度、海外からの応募者は26カ国79名でした。本当に世界中から参加してもらっています。

森の中を歩いている人たち

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ロシア・イルクーツク近郊
タイガ林での調査風景

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雪の結晶ストラップ

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雲の学校
(星野リゾート・トマム)

丘の上に立っている男性

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モンゴル・ウランバートル近郊、森林草

川の上の橋

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インドネシア・カリマンタン島の泥炭湿地

道路で自転車に乗る人

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サステナビリティ・ウィーク中に運行された北大ベロタクシー

実学重視を体現する「実践環境科学コース」

「実学の重視」を基にして、地球環境科学研究院環境起学専攻に「実践環境科学コース」ができました。英語では「Course in Practical Science for Environment」、それぞれの頭文字を取って「PractiSE」という略称です。
環境起学専攻は、クラーク博士の「Be ambitious!」の精神を受け継ぎ、環境科学の基礎と応用に関する新たな学問を興すことを目指して設立しました。この中で、実践環境科学コースは、環境科学に関する専門性を身につけ、問題を発見し、さまざまな人々と連携して問題を解決する能力を持つ人材を育成することを目標に設けられたものです。
北海道占冠村の人口は1,100人ですが、ここにある大規模リゾートを運営する「星野リゾート・トマム」と昨年、提携を結びました。積雪寒冷地である北海道の特性を最大限に活用し、地元に根ざした活動を行うため、PractiSE が中心となって「雲の学校」等を実施し、体験型観光、環境教育のプログラムづくり等を行ってきました。中でも評判を呼んだのは「雪の結晶レプリカ」によるキーホルダーです。
雪の結晶を特殊な樹脂で定着させるもので、氷雪の研究者にはよく知られたものですが、星野リゾート・トマムとの提携の中で、「氷のLABO」という、雪氷、環境に関わる研究成果を展示する場を設け、その中で観光客に「雪の結晶レプリカ」の制作を実演、提供すると、美しい雪の結晶が溶けることなく持ち帰られるとして、テレビ取材を受けるなどの反響を呼びました。
北海道は世界的に有数な寒冷積雪地域です。欧米にも積雪地域はありますが、北海道ほど雪の量の多いところはありません。多くの地域で雪の量は減っていきますが、北海道ではまだまだ雪が多く残ります。アジアの経済発展にともない中産階級が急増していますが、これらの人々が雪を求めて北海道に押し寄せるかもしれませんね。
雪は資源です。私たちは環境科学の研究を通じて、雪を資源としたまちづくりを地域と連携して行っています。これも“実学”としての取り組みなのです。

環境科学は21世紀の実学

持続可能社会の構築に向け、「大学は未来をつくるための実験場」といえます。大学キャンパス内で先駆的な取り組みを行っていくことも、21世紀の大学に求められる機能なのです。こうしたことから、私たちは、サステナビリティ・ウィーク期間中に、学内でベロタクシーと呼ばれる自転車タクシーを運行する企画「自転車タクシーDE おしゃべり& ECO」を行いました。
20世紀、大学は国家の負託を受け、高度経済成長を担う人材を育成してきました。この時代は化学や機械工学等がまさに時代を支える“実学”でした。21世紀になり、高度経済成長に代わって“持続可能な社会”の構築が社会目標になった今、「環境」は21世紀の実学になったと思います。

キャンパスは未来をつくる実験場─北大農場の社会実験

都心の大学内農場は、サステイナブルキャンパス構築の原動力に

本学の札幌キャンパスには、56ha の農場があります。正式名称「北海道大学北方生物圏フィールド科学センター生物生産研究農場」という農場は、都市圏にある大学キャンパス内農場としては国内随一です。サステイナブルキャンパスの構築に向け、「大学キャンパスは未来をつくる実験場」といわれます。この環境を活用し、同センターの荒木肇教授は、省エネルギー、物質循環、ゼロエミッションの社会実験を行っています。

窓の前に座っている男性

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北方生物圏フィールド科学センター 生物生産研究農場教授 荒木 肇
1955年生まれ。北海道栗山町出身。
北海道大学農学部農学科卒。同大学院博士課程修了。北海道大農学部助手、新潟大学助教授を経て、現在北海道大学北方生物圏フィールド科学センター耕地圏ステーション生物生産研究農場教授。
持続型農業を目指し、バイオマスエネルギーの研究等環境と農学の接点を開拓している。

生存基盤学としての農学

屋外に立っている男性

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荒木教授、北大農場にて

農学を北海道大学では生存基盤学と称していますが、現在の農学は農業の範囲にとどまらず、食糧を通して生活の基盤を考える学問になっています。現在、都市と農村の格差、中でも農村の疲弊は著しいものがありますし、都市でも貧富の差が顕著になってきています。こうしたことも含めて、農学研究の裾野を広げていく時代になってきたと思います。
ご承知のように昨年3月11日に大震災がありました。そして福島原発の事故です。反原発の集会には、女性と年配者が多いのも特徴です。女性は子を持つ母としての参加ですし、年配者は自分たちが築いてきた社会への反省なのでしょう。
こうした問題も含めて、私たちは今後どのように生きていくのか、これまでの生活様式のままでよいのか、すなわち、次の世代に何を残すべきか、環境とのリンクも含め、農学は考えていかなければならないと思っています。
「環境」の問題というと地球規模の、非常にスケールの大きな問題と捉えがちですが、私はこれを人間を中心に捉えるべきだと思っています。そうであれば、この北海道大学の中でもできることがあります。むしろ、この規模の、ここにある大学だからこそ試せることがあると考えてきました。

食物残渣からメタンガス

1990年代の後半に北キャンパスの開発が始まり、2004年に北キャンパスにあった牛舎が現在地に移設されバイオガスプラント(メタンガス発生装置)が設置されました。プラントは2004年から稼動しています。2003年に北大に赴任してきた私は、プラントから大量に発生する消化液の利用の研究をしましたが、これに学内の廃棄物を処理させられないかと考えました。
病院の有機性廃棄物で最も量の多いものは、ご飯の食べ残しでした。最初は堆肥化できないかと試みたんですが、ご飯は水分が多く固液分離機で脱水してもうまくいかない。そこで、これをバイオガス発生装置に回せないかと考えました。アメリカで使われているディスポーザーで中間処理(粉砕)をさせた後の投入を考えています。これを実現するにも病院から農場への運搬等のシステム構築が必要です。
現在は、ガスの発生量が十分ではなく、得られたエネルギーは、メタンガス発生装置のメタン発酵槽を温めるために使っていますが、発生量を増やしていけば、都市ガスの代わりに、例えば、冬に豚舎を温める熱源に使えると思っています。

農場作物を燃料ペレットに

同じ有機性廃棄物としては、農場の作物の残渣物、トマトやキュウリの実を取った残りの茎や根を、細かく砕いて、乾燥させ、固めて燃料にする取り組みを行いました。いわゆるペレット燃料というものですが、作物残渣物のペレットは、乾燥させるのが大変でした。農作物の収穫時期から北海道は天候が悪くなり、乾きにくくなるのです。干し柿のつくり方を取り入れて、ビニールハウスに寒風を入れながら乾燥させると完全ではないにしろ、乾くようになりました。
また、作物は肥料を吸収して生育するので作物残渣物のペレットにはN やS が多く含有され、燃焼すると NOXやSOX が発生します。木質の材料をブレンドすることで、ようやく燃料として使えるようになりました。私のところのビニールハウスを温める燃料として使い、冬季にアスパラガスを生産し、この冬には北海道平取町と共同でトマト生産の試験をしました。北大では、多くの樹木があり、毎年1回行われるキャンパス・クリーン・デーでは膨大な量の木枝が出るんですが、これを木質材料として使えないかと考えているところです。

シンプルに、ローテクに

自然エネルギーの利用が広まらない理由の一つに初期コストがあります。エネルギーを生み出す装置に巨額の費用がかかってしまうのです。私は、町場の小さな工務店が行えるような工事で、もっとエネルギーを生み出せると思っています。省エネルギーというと、節電目標を守るような受動的な活動と思われてしまいますが、もっと能動的になって自分たちから積極的なアイデアを出し合うことが必要だと思います。
例えば、私の研究室には植物環境調整室という研究施設があり、そこには大型の乾燥機があってかなりの熱を発生させています。この熱をちょっともらって有効活用できないか。また、作物の貯蔵庫でも冷暖房にエネルギーを使っていますが、厳密な温度管理を必要としないので、ならば地中熱を循環させて温度を保てないかと検討しています。シンプルでローテクですが、そのことにこだわってやっていこうと思っています。
今年のサステナビリティ・ウィークでは、自然エネルギーを一次産業に活かすシンポジウムを考えています。その中で私がぜひとも取り上げたいのは、小水力発電です。水力発電というと大規模なダムを連想してしまいますが、水の落差と水量があれば、水力発電はどこでもできるのです。ところが水利権との関わりで設置が難しい現状もあります。自然エネルギーと従来からの管理権との関係を考える場にしたいと思います。
これらの取り組みは、私一人で行っているものではなく、工学部や、地球環境科学研究院の先生や学生、道工業試験場や民間会社研究者等多くの人たちの協力を得ています。キャンパス内に農場があり、環境に関わる多くの部局、研究機関が同じキャンパスの中にあることがこの大学の強みです。
北大農場は、学内共同利用施設になっていることからどの部局とも手をつなげます。都市の中にある農場として環境問題を考えていく最高の舞台と思っています。大学の「サステイナブルキャンパス構築のためのアクションプラン2012」の中でも、社会実験が推奨されています。今後とも、さまざまな社会実験を通し、また大学の内外に門戸を開いて、この農場の意義を積極的に発信していきたいですね。

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都心に広がる広大な北大農場

草を食べている牛

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北大農場・酪農生産研究施設に設置されている
バイオガスプラント

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ペレットボイラー加温による冬季アスパラガス生産

手に持ったクッキー

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北大農場のトマトから作られた
ペレット(右)と木質ペレット(左)

地域から学び、地域に還す─全人教育の場としてのフィールドワーク

3.11未曾有の大震災に、環境社会学は何ができるのか

2011 年 3 月 11 日、東日本一帯を襲った大地震は、これにともなって起こった福島原発事故と合わせて、日本社会に大きな衝撃をもたらしました。本学大学院文学研究科で環境社会学を専攻する宮内泰介教授は、石巻市で震災で壊滅的な被害を受け、高台移転を目指す地区の復興を支援しています。

スーツを着た男性

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大学院文学研究科教授 宮内 泰介
1961年生まれ、愛媛県出身。
1984年に東京大学文学部卒。 東京大学大学院社会学研究科、日本学術振興会研究員、福井県立大学経済学部等を歴任。1996年より北海道大学。ソロモン諸島における生活・環境研究等、環境社会学や地域社会学を専攻。

日本一の研究者の厚み

環境には、生態系等から見ていく自然科学的アプローチ、どのようなインセンティブを与えると解決に結びつくかという経済学的アプローチがありますが、環境社会学は社会学のアプローチから環境を捉える学問です。
ひとくちに環境といっても、個人のレベル、地域のレベル、国家、世界とさまざまなレベルがあります。実際の環境は、これらが複雑に絡み合っており、どれかのレベル、または特定の見方に偏ってしまえば、狭い意味でも、広い意味でも問題が出てしまう。こうした全体を観察、分析して提言しようとするのが環境社会学の立場です。環境社会学は、さまざまな視点をコーディネーションする立場ということができるかもしれません。
私は北大に移ってから16年になりますが、環境をテーマに学ぶには素晴らしい環境だと思います。一つは、環境をテーマに研究する研究者の層の厚みです。自然科学系はもちろん、社会科学系を入れても日本では一番ではないでしょうか。フィールドに根ざした研究者が多いのも特徴です。しかも、それらの研究者が一つのキャンパスに集まっているわけですから、自然と環境研究のネットワークができます。
今述べたように、環境への取り組みは学際的にならざるをえないわけですから、社会科学の研究者であっても自然科学の勉強は不可欠ですし、その逆もそうです。とはいえ、これは実際には言うに易し、行うに難し。今も続いていますが、フレッシュマンセミナーという学部1年生向けの入門講座を、土壌の先生、動物の先生、植物の先生等と担当したのですが、異分野の先生との協働はとても勉強になりました。この大学に来て、学際的に行わなければならないというマインドを見い出したことは、私の大きな財産ですね。北海道大学にいなければ、今の私はないかもしれないと思っています。

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研究フィールドの
ソロモン諸島の焼畑

砂の上にある岩山

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壊滅的な被害を受けた
石巻市北土町

山と海

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石巻市北上町のヨシ原

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石巻市北上町集団移転ワークショップ

会議室に集まる人々

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石巻市北上町集団移転ワークショップ

合意形成のファシリテーター

環境社会学のもう一つの視点は、フィールドワークです。現地調査、参与観察ともいいますが、現場に根ざして考える。これと関連しますが、生活者の立場から環境の問題を考えるのが、環境社会学の立場です。
私は社会学者として、長く南太平洋のソロモン諸島をフィールドに研究を続けてきましたが、国内では宮城県北上町、今は石巻市になっている人口3,600人の地区をフィールドに研究してきました。北上川の河口部にあり、河原に生えるヨシを地域の資源として利用してきた歴史があります。このヨシ原と地域の関係が興味深く、長く通っていました。
石巻は、ご承知のように2011年の東日本大震災で壊滅的な打撃を受けたところです。私たちが通っていた地区でも300人ほどの命が失われました。もちろん家屋はほとんど流されました。
社会学者として長く地域で学ばせてもらった私たちは、復興へのお手伝いができないかと考え、昨年から地区の高台への集団移転についてお手伝いさせてもらっています。
集団移転は、集落の合意形成がとれたところから国の支援を受けて事業がすすみますが、私たちはその合意形成を図るためのワークショップ、地元では寄り合いといっていますが、これのファシリテーターを行政と協力しながら行っています。学生はワークショップの記録係や進行補助として関わり貴重な経験となっています。
地域の視点で考えるといっても、漁業者の立場、農業者の立場、若者、高齢者……、実際の地域にはさまざまな考えがあります。ですから合意形成支援というのは、実際には、それぞれの考えをきちんと聞くことなんですね。もともと社会学者は人の話を傾聴するのは得意ですし、研究を通して地域のことを多少なりとも知っていることが財産になっています。こうして私たちが通う集落は、最も早く高台移転を決めた集落になりました。もともと団結力のあった地域ですが、その合意形成に少しは貢献できたかもしれません。
こうしたことは直接には環境と関わりがないのかもしれません。しかし、社会学者として、集落の高台移転に関わる中で、これまで見えなかった多くの知見を得ることができました。それらにも増して、環境を学ぶ目的は社会の持続可能性にあるのです。この地域において最もプライオリティの高い課題は集団移転であり、研究者としてこれに協力していくことは、決して環境社会学から外れたことでありません。
集団移転一つをとっても、雇用の問題、福祉の問題、防災の問題と、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。学問の立場でこれを見ると、例えば雇用の問題は経済学、福祉の問題は地域社会福祉学と細切れになってしまったかもしれません。環境社会学は、学際的にならざるをえないし、またさまざまな分野をコーディネーションする立場であることを、再認識しました。

ミクロとマクロを結ぶインタラクション

フィールドで研究する研究者は、環境の分野でも研究対象に対して自分なりのフレームをつくり、その中で理解しようという傾向がありました。しかし、最近は自然科学の分野でも変わってきています。例えば、これまででしたら、この地域で望まれる生態系はこうであると押しつける傾向もあったものの、今は、地域の生態系は一義的に決められるものではない、多様な生態系があり得るし、それを選ぶのは地域だとする見方が広がってきています。
世界的に環境の問題を見ると、研究者の間には分かりやすい図式に押し込めて説明しようとする傾向が強くなってきているように思います。政策決定者に、環境という複雑な問題を理解してもらうためには、こうした定式化も重要だと思いますが、一方で単純化してしまうことで、失われてしまうことも多いのです。
環境をめぐる研究者は、こうしてマクロに全体を定式化する立場と、ミクロに重箱の隅をつつくような微に入り細に亘る立場とで二極化しているように見えますが、いずれの立場が良く、いずれが良くないというものではありません。
大切なのは、現実とのインタラクションを図りながら、立場がダイナミックに変化することを良しとして、両者が互いを認めながら対話を続けることだと思っています。そうした意味では、環境をめぐり、さまざまな分野の研究者がいるこの大学は、そうした対話をすすめる絶好の舞台になっていくと思っています。

本棚の前で本を読んでいる男性

自動的に生成された説明

研究について語る宮内教授