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サステイナビリティを広める北海道大学の活動-環境科学院

環境報告書2011より

持続可能な社会を目指すリーディング・ユニバーシティとして、教育と研究に励むことはもとより、市民や地域、全国、世界と協働するネットワークづくりに努めています。本学の環境活動の一端を紹介いたします。

サステイナビリティを牽引する北大の環境科学研究

1876年に札幌農学校として開校した本学には、北海道開拓の中で「環境」という課題と向き合ってきた歴史があります。持続可能な社会のために大学が行える最も直接的な貢献は「研究」です。日本でもトップクラスとされる本学のサステイナビリティに関する研究の中で、2011年度、学会等で高く評価された研究をいくつか紹介いたします。

流域の生態系研究で、第14回尾瀬賞、第6回みどりの学術賞受賞

青いシャツを着ている男はスマイルしている

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農学研究院教授
中村 太士

釧路湿原や道内河川・森林をフィールドに、長年、生態系間の相互作用について研究をすすめてきた農学研究院の中村太士教授が、2011年に湿原を対象としたすぐれた学術的・学際的研究を顕彰する「第14回尾瀬賞」(尾瀬保護財団)を、さらに2012年には「みどり」に関する学術上顕著な功績に対して内閣総理大臣が授与する「第6回みどりの学術賞」を受賞しました。
森林、河川、湖沼、湿原と多様な生態系が連なる流域内では、洪水や土砂崩れ等によって、絶えず地表変動が起こっています。これによる生態系のかく乱は、一般的に環境の破壊と捉えられますが、実は生態系の維持に欠くことのできない役割を果たしていることを、地道なデータの積み重ねによって実証的に明らかにしたのが、中村教授の業績です。教授の研究成果に基づき、釧路湿原の総合調査と修復事業が始められましたが、これは日本の自然保護の考え方に画期的な転機をもたらす出発点になったといわれます。全世界的にこの領域の研究を飛躍的に進展させたことが、これらの受賞理由となりました。

自然, 屋外, 山, 草 が含まれている画像

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釧路川の蛇行復元

健康増進のための環境疫学研究で日本衛生学会学会賞

人, 屋内, 窓, テーブル が含まれている画像

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環境健康科学研究教育センター教授 岸 玲子

岸教授は、子どもから高齢者に至る生涯を通じて、環境が人々の健康にどのような影響を与えるのかについて、幅広く研究を続けてきました。対策の基本マニュアルを生み出したシックハウス症候群研究、全国の職業がん対策の端緒となったクロム肺がんの研究等、潜在的な健康障害の原因を見つけ、予防活動につなげる研究で顕著な業績をあげています。また、高齢者の社会的ネットワークとその心身の健康に関する研究は介護予防研究の先駆けとなりました。これら長年にわたる公衆衛生学への貢献が、「第14回日本衛生学会学会賞」の受賞になりました。
また教授は、2011年に、「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)等、環境と人々の健康に関わる大規模な疫学調査を長期間すすめるため本学に「環境健康科学研究教育センター」を設立、初代センター長に就任しました。同センターの設立は本学のサステイナブル社会の取り組みに「環境と健康」領域を加えるものであり、そのリーダーシップが期待されています。

テキスト, カレンダー

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エコチル調査ポスター

パタゴニアで氷河流動のメカニズムを解明

赤いシャツを着た男性

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低温科学研究所講師 杉山 慎

低温科学研究所の杉山慎講師らのグループは、南米パタゴニアで氷河全層515m の熱水掘削に成功し、氷河流動のメカニズムを解明しました。
末端が湖や海に流れ込むカービング氷河は、現在世界各地で急速に縮小しており、海水準上昇に大きな影響を与えています。このため杉山講師らは、アルゼンチン南極研究所、国立極地研究所、広島工業大学、筑波大学と研究チームを組み、2008年から2010年にかけて、パタゴニアを代表するカービング氷河ペリート・モレノ氷河に、深さ515m の縦孔を掘削する調査を行いました。
この結果、底面水圧のわずかな上昇が、氷河の大幅な加速を生んでいることが確認されました。底面水圧は気温上昇の影響を受けており、気温上昇によって海や湖への氷流出が加速し、氷河縮小の引き金になっている可能性が示されたのです。地球温暖化が環境にもたらす影響に新たな知見を加えるものとして高く評価され、研究成果は2011年8月付で英国の科学誌「Nature Geoscience」に紹介されました。

雪が降った山の景色

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ペリート・モレノ氷河

複雑な配電網で効率的に電気を流すための計算手順を開発

ノートパソコンを使っている男性

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情報科学研究科教授 湊 真一

福島原発事故がもたらした電力不足等から電力の安定供給への関心が高まっている中、高度に管理された電力網によって省エネルギーと安定供給を実現する「スマートグリッド」技術が注目されています。
電力は発電所から需要家まで複雑な配電網によって供給されていますが、網内全域に正確で効率的な配電が行える構成は、経験と実績に基づき最良と思われる構成が選ばれていたのに過ぎませんでした。そこで湊教授は、独自に考案したデータ構造と、膨大な数の組み合わせをコンパクトに圧縮して超高速に演算するアルゴリズム技術によって、条件を満たすすべての構成を索引化し、膨大な構成の中から送電ロスを最小限にする構成を見つける技術開発に成功しました。
この成果により、最適な送電網構成を短時間で得ることが可能になったばかりか、送電網中に故障箇所が発生しても柔軟に組み替えることが可能になる等、将来のスマートグリッドを支える基盤技術になると期待されています。

ダイアグラム

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配電網の標準解析モデル

エコミュージアム概念に基づいた文化資源マネジメントに関する研究

草の上に立っている女性

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観光学高等研究センター
特任助教  村上 佳代

観光学高等研究センターの村上佳代特任助教は、「エコミュージアム概念に基づいた文化資源マネジメントに関する研究」で、日本都市計画学会の2011年度学会賞論文奨励賞を受賞しました。村上助教の研究は、文化資源マネジメントにエコミュージアムの手法が有効であることを、山口県萩市とヨルダン・ハシミテ王国の事例研究を通じて明らかにしたものです。
村上助教は、山口県萩市をフィールドに住民と協力して地域資源を発見し、それをまちづくりに生かす取り組みを続けてきました。こうした実践で培ったまちづくり手法をモデル化し、中東ヨルダンのサルト地区に技術移転する取り組みが、「参与観察調査を展開してきたその行動力とユニークさをむしろ評価し、今後の活躍を期待したい」(受賞理由)として高く評価されました。まちづくりの実践的なモデル手法として、今後の発展が期待されます。

町の景色

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ヨルダン・ハシミテ王国のサルト地区