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サステイナブルキャンパス国際シンポジウム2016基調講演より 鶴崎 直樹 九州大学人間環境学研究院・キャンパス計画室 准教授

2016年11月1日・2日に開催した国際シンポジウムの基調講演より

九州大学のキャンパスマスタープランの視点

−『新キャンパス・マスタープラン2001』による戦略的アプローチ−

鶴崎 直樹 九州大学 人間環境学研究院・キャンパス計画室 准教授

皆さん、どうもこんにちは。九州大学の鶴崎と申します。平成3年に九大が移転を決めて、私は平成6年からキャンパスを計画する室に所属しております。今日は「マスタープランにどのような点で取り組むべきか」なんて上からの話ではなくて、一緒に共有できるような話ができればいいかなと思っております。

九大は老朽、狭隘、教養との分離みたいなこと、それを解消するために、3つの地区を福岡市の西部に統合する統合移転事業を進めております。5,000人、6,000人、8,000人ぐらいが3段階で移転して、平成31年に完了する予定になっております。

まずキャンパスの状況をご紹介します。元々は275haの丘陵地、農地だったんですけれども、その中心部分を開発した形で、キャンパスのセンター部分には昔の教養部にあたる建物が入っております。西の方から工学系の建物、理学系の建物、農学部の建物、遠くには内藤廣さんが設計した椎木講堂も見えています。

今、工学部の建物ができあがって、1万人を超すキャンパスコミュニティが伊都キャンパスの方で生活を始めております。キャンパスはリビング・ラボラトリーという言い方がありますけれど、いろいろな実証実験を行う実験フィールドとしても使われております。文系の建物はまさに建設途中で、2年後には完了して5,000人ぐらいが移転をする予定になっております。農学部の建物も建設をしている途中でございます。

さて、キャンパスの計画の概要についてご紹介していきたいと思います。まず組織は、総長の直下に「将来計画委員会」がありまして、キャンパス担当理事が招集する「キャンパス計画及び施設管理委員会」がございます。その中にはいくつかのテーマをもったワーキンググループがございます。

マスタープランをつくるにあたって、平成3年ぐらいから現地を調査しました。伊都キャンパスはゼロから開発していくということで、フルメニューでやっております。当初はミカン畑が多い丘陵地で、下に保全するべき緑地があって、細長い部分しか残っておりませんでした。地形・地質・水系を、大学の中にいる専門家に調査してもらっております。カスミサンショウウオですとかナンボクゲンジソウですとか、その分野の先生方は「かわいくてしょうがない」という貴重な動植物もあって、それらを保全しなければいけないという命題があります。それから、売るほど埋蔵文化財があります。前方後円墳は6基、円墳も60基くらいあります。すべてを残すわけにいきませんけれども、うまく調査して記録保存して、自然環境あるいは歴史環境と共生するような形でキャンパスづくりを行っています。

いろいろな土地のコンテクストを分析して、計画のベースとして「配慮すべき条件」という大きな枠組みをまずは作りました。その後、マスタープランに至る前に基本的な考え方を決めようと、保全しなければいけない場所をキープして、余ったところを建物にあてる大きなフレームをこしらえました。造成基本計画を平成10年に作り、その後にどこの部分に何学部をもっていくか、各部局の代表の先生方とワークショップを開いてゾーニングを決めていきました。

ベースとなる調査や分析を行った後に、2001年にマスタープランを作って、それを各地区の基本設計につないで、さらに施設につないでいきました。デザインマニュアルを一緒にこしらえて、空間の骨格の方針としてのマスタープランとともに、環境の質みたいなものを担保するプランを作りました。マスタープランの構成ですが、大学を取り巻く諸条件、その上位の条件を選んで、求められるキャンパス像を描いて、「それを達成するためにはどういう目標を掲げて、どういう戦略でやっていくか」と具体的なフィールドに落とす計画を作っております。「知的創造フロンティア、情報ステーション、エンジン、風格あるシンボル」と読んでいきますと、上位のアンブレラ・コンセプトみたいなものがご理解いただけるかと思います。ただ、これだけだと「マスタープラン、どう作っていくの?」という話につながっていきませんので、よりブレークダウンして具体的な話に落としていこうということでございます。

どういうコンセプトで空間を創っていったかをここから紹介したいと思います。まずは、学府・研究院制度という新しい組織形態に変化させていきました。「一体的な研究環境を創りましょう」「キャンパスの上にタウンを創りましょう」「民間施設を立地誘導しましょう」といったものが大きな戦略として立ち上げられました。学府・研究院制度は、今までわりと柔軟性のない組織だったものを、学生と教員の所属を別にして、教育のあり方の自由度を高め、それを受け入れるハードとしての施設を造ろうということです。「自分のところの縄張りみたいなものはなくしましょうね」という話ですね。「今まで有効に活用されていなかったところをコンパクトにまとめて、緑を生み出して戦略的に使っていきましょう」と、空間の使い方に対する方針を立てていっています。

細い場所しか使えないことを逆手にとって、なるべく建物をつなぐ形で「学際的な研究やインストラクションが起こるような装置としての建物を造りましょう」という方針を立てました。「歩行者専用の空間を建物とつなぎましょう」「キャンパスコモンと呼ばれる広場を追加させましょう」といったことを空間づくりの方針として定めています。それから、キャンパスのセンター地区に、学際的な交流、民間立地、地元との交流みたいな機能を乗せています。「学生と研究者が集う交流拠点を作りましょう」「センターゾーンとして、九大の顔となるシンボリックで高機能な場所づくりをしましょう」みたいなことが、コンセプトとして空間計画に落とされています。

糸島地域は風光明媚なところで、環境資源と共生するようなキャンパスづくりをしようとしています。緑地と開発部分がなじむ計画を立て、いろいろな生態系や歴史系の資源をトレイルでつないで、環境そのものを学習フィールドとして使いこなすということです。

大学はいろいろな研究者がおり、そこをフィールドとしていろいろな調査・分析をすることが有利に働く場所です。ITの技術とか、水を再生して使うとか、外界とつながっていくことを実験キャンパスとしてやっていく、キャンパスの理想像みたいなものを最初に抱え、それに対する戦略が下敷きになって九大の伊都キャンパスが計画されています。

フィジカルプランとしては、やはりメインの幹線道路が必要です。なぜS字に曲がっているのかと言うと、勾配を5%にしないと登れないからですけれど、それもうまく使いながら、車道と歩行者動線を分離する形で安全・安心な空間を創り上げて、交通および動線計画としてのフレームが提示されています。主に建物の南側に歩行者の専用空間があり、さらに南側にキャンパスコモンと呼ばれる緑地空間を創り、北と南の緑地空間をつなぐグリーンコリドーをフレームとして挿入する。そういうことで全体の空間構成図ができあがって、それを下敷きに建物が建ち上がっていくということです。

センターゾーン、ウエストゾーン、イーストゾーン、それぞれの概念的なものに対してスタディみたいなものを起こしたのがこのスケッチとなります。こういったものを統合して、2001年にマスタープランができあがりました。単に絵を描いたわけではなくて、その前にはエネルギーをかけた踏査があって、その踏査を生かして何を守るべきか、何と共生すべきか戦略を立てて、絵ができあがったとご理解ください。

キャンパスマスタープランは、空間をどのように使っていくかという構成について定めた、九大の憲法みたいなものだったんですけれども、それだけでは、たとえば「色どうするの?」「素材どうするの?」という話が抜け落ちているんですね。ということで、マスタープランとともにパブリックスペース・デザインマニュアルをこしらえております。それが2004年にできて、今年また改訂をしました。キャンパスの環境の質に関する要素として、ランドスケープ、植栽、サイン、アート、ファニチャー、色彩、素材などがあろうかと思います。たとえばクラシカルな建物のテイストを新しいキャンパスにも挿入する、あるいは、もう少し未来指向のデザインにするとか、そういったものをこのデザインマニュアルで方針を立てています。とはいえ、デザインマニュアルもキャンパスマスタープランも作っただけではダメで、キャンパス中でいろいろなアクティビティがあるんですね。建築が振る舞いを発生させる。逆に言うと、振る舞いを捉えて、それをどう建築に生かしていくかというアプローチも重要で、アクティビティを捉えて、どうふさわしい空間を提供できるかが、マスタープランの1つの命題だと思っております。

さて、九大だけでこの地域が創られているわけではなく、周辺の自治体との協力の中でできあがっていっております。平成12、3年だと思うんですけれども、学術研究都市構想というのを作りました。九大、福岡市、その当時の前原市、志摩町、それから福岡県が入って協議会を作りました。行政機関、企業、地域の人、大学が、九大をコアとして、糸島半島全域をターゲットととらえ、共生社会の実現、世界・アジアとの交流といったコンセプトの下に学術研究都市づくりを進めているところでございます。

糸島市と福岡市には近辺にいろいろな開発をしていただいております。道路整備、産学連携交流センター、伊都キャンパス手前の区画整理もそうです。まわりの自治体の協力がなければ、学術研究都市というのは構築できませんし、先方も発展するためのエンジンとして九大を使おうという想いがあろうかと思いますけれども、意識を共有して進めていけているのではないかという気がしています。

まとめになりますけれど、まずはマスタープランをつくるにあたっては、やはりキャンパスの将来像あるいは戦略みたいなものを作って、それを共有することが大事だろうということですね。2つ目には戦略を空間に変換する。絵としたコンセプトを共有することが大事だろう。3つ目はプロセス。先ほどもマスタープランというのはプロジェクトではなくてプロセスそのものという話がありましたけれども、やはりプロセスをデザインすることが重要だと思います。4番目に、魅力的なキャンパスを創っていくためには、空間の骨格形成となるマスタープランとともに、質的側面を担う方針、デザインマニュアルみたいなものが必要ではないかと思っています。しかしながら、やはりキャンパスの多様なアクティビティに注目して、それを受け入れるキャンパスづくりというのが重要ではないかということです。最後には、地域と共有できる戦略を立てて、各主体が一所懸命取り組むようにお互い働きかけることが重要なのではないか、と思っております。ご清聴ありがとうございました。