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官学連携プログラム「カーボンニュートラル夏季短期学習プログラム」を開催しました

札幌市、下川町、北海道大学、法政大学および関西大学は、官学連携プログラム「カーボンニュートラル夏季短期学習プログラム」を8月29日および9月5日から7日に開催しました。本プログラムには、事前申込を行った三つの大学の学生・院生12名が参加し、オンラインでの事前学習、札幌市や下川町でのフィールドワークを行いました。

事前学習(8月29日・オンライン)

参加者は、この日までに、法政大学デザイン工学部建築学科の川久保俊教授による「カーボンニュートラルミニ講座」をオンデマンドで視聴し、国土交通省都市局都市政策課の「都市行政におけるカーボンニュートラルに向けた取組事例集(令和5年3月)」を読み込んで事前学習に臨みました。
8月29日にはオンラインで事前学習を行いました。最初に法政大学生命科学部環境応用化学科の渡邊雄二郎教授が「カーボンニュートラル」についての講義を行いました。講義では「カーボンニュートラル」とは何かを説明することから始まり、日本政府が掲げる「ネットゼロ」の説明、各都市行政におけるカーボンニュートラルに向けた取り組み事例紹介を行いました。
続いて、東京都千代田区と吹田市が、それぞれの自治体で行っているカーボンニュートラルへの取り組み事例について説明を行いました。参加者たちは、カーボンニュートラルという共通の目標があり、自治体によって面積や人口(昼間・夜間)や産業が異なる中で、その地域に合わせた取り組みを行っていることを学習しました。
最後に、オンラインツールによってグループに分かれて、振り返りを行いました。

渡邊雄二郎教授による講義:カーボンニュートラルについて
千代田区の取り組み事例紹介
吹田市の取り組み事例紹介

1日目(9月5日・札幌市)

参加者は、北海道大学札幌キャンパスで講義とフィールドワークを行いました。
最初に、住友商事(株)村越勁太主任と住友商事北海道(株)小野貴史チーム長代理から、「エネルギーを取り巻く昨今の状況」「当社およびEnergy Innovation Initiative (EII) 概要」「当社取り組み概要(蓄電池・地中熱)」について講義を行いました。カーボンニュートラルが世界的な課題となっていること、それを実現する他には多様な再生可能エネルギーの開発が必要で、蓄電や蓄熱の技術開発が不可欠であることなどが紹介されました。
受講生やスタッフ間でのアイスブレークの後、北海道大学札幌キャンパス内の生物生産研究農場に移動して、バイオガスプラントと牛舎、温室を見学しました。牛ふんをメタンガスに変換してエネルギーとして活用することと、副産物として生じる消化液の循環活用の必要性などについて実例を見ながら学習しました。

講義を行う住友商事(株)村越勁太主任(左)、住友商事北海道(株)小野貴史チーム長代理(右)
札幌キャンパス生物生産研究農場のバイオガスプラント見学の様子

2日目(9月6日・下川町)

参加者は貸切バスで下川町に移動しました。下川町は、2008年に環境モデル都市に選定されて以来、2011年には環境未来都市、2018にはSDGs未来都市に選定され、経済と社会と環境の3側面からの価値創造と総合的解決に取り組んでいます。
参加者は下川町役場を訪問し、下川町の田村泰司町長から歓迎を受けました。続いて、下川町総務企画課SDGs推進室の亀田慎司室長から、下川町のSDGsの取り組みについて説明を受けました。1950年代に国有林1,221haを下川町が取得して、1960年代から毎年40~50haを伐採し、植林し、60年間育成するという循環型森林経営をスタートさせたことや、トドマツやカラマツなどの森林資源を、可能な限り加工までを下川町内で行い、カスケード利用することで森林の恵みを余すことなく使う考え方について理解しました。
続いて、総務企画課の山本敏夫課長からゼロカーボンシティしもかわの実現に向けて説明を受けました。森林から出る材木にならない端材などをチップ化し、バイオマスエネルギー熱利用による地域づくりを行い、光熱費の年間削減額約3,800万円を生み出していることや、水力発電や熱電併給プラントの整備により非常時の電力供給対策を行っていることを理解しました。
その後、下川町内の桜ヶ丘公園を訪問し、町内の農地や草地造成の際に土中から出た石を集めて市民の手で作り上げた万里長城や、交流や休憩スペースとして利用されているガーデニングフォレストフレペなどを見学し、下川町を視察しました。

説明を行う亀田慎司室長
下川町役場での講義の様子
説明を行う山本敏夫課長
桜ヶ丘公園訪問の様子

3日目(9月7日・下川町)

3日目は、下川町の森林組合北町工場、フプの森、木質原料製造施設・一の橋バイオビレッジを訪問しました。
森林組合北町工場では、工場長の石原さんから説明を受けました。まず製炭窯を見学し、主にカラマツを製炭し、燃料炭や水質浄化に使われる「しもかわ木炭」となっていることや、製炭工程で木酢液が副産物として得られることを理解しました。次に、小径木加工施設を見学し、カラマツやトドマツの円柱加工を行い、その後木酢加工や燻煙加工ののち、住宅の外壁材や土木・緑化・河川用資材などに使われることの説明を受けました。その後、木酢煮沸装置や燻煙炉を見学した後、農業用土壌改良材や融雪促進剤として活用される炭素生産を行っている平炉炭化装置が老朽化によりまもなく閉鎖されることの説明を受けました。

次にフプの森では、代表の田邊さんから説明を受けました。森林組合の活動として2000年頃からトドマツの枝葉を手作業で集め、蒸留成分を油分分離することによりエッセンシャルオイルを生産し、水分は芳香蒸留水として活用し、残渣については枕の材料として使っていることなどの説明を受けました。ご自身が移住者として下川町に入ったことや、さまざまなキャリアパスがあることも語ってくれました。フプがアイヌ語でトドマツの意味であることや、2015年に立ち上げたブランドNALUQ(ナルーク)と、明治時代に下川町に入植した現在の郡上市の関係など説明を受けました。

続いて平成21年に設置された木質原料製造施設を訪問し、未利用間伐材や林地残材燃料用チップを生産する工程を見学しました。原材料となるものは含水率が高いため、敷地内で1~2年かけて原材料を自然乾燥させ、2cm以下、含水率33%以下のチップを生産していました。燃料用チップが使用されると灯油需要が減るため、ガソリンスタンドの従業員により協同組合を設立し、指定管理者として施設を稼働させており、年間約2,000万円の利益が生じており、雇用と利益を守る活動となっていることの説明を受けました。設置当初は利益が出なかったが、灯油の価格が上昇し利益が出るようになったと説明を受けました。これらの燃料用チップは冬季の暖房に木質バイオマスボイラーの燃料として使用されています。

最後に、下川町中心地から約12km離れ、燃料用チップを活用している施設の一つである「一の橋バイオビレッジ」を訪問しました。1960年には2,000人を超えていたこの地域も2009年には100人を下回り、限界化する集落再生のために、地域おこし協力隊と、木質バイオマスによる熱供給施設を活用していることの説明を受けました。熱供給施設からの熱は障がい者支援施設や、26戸の集住化住宅、特用林産物(シイタケ)栽培研究所などに供給され、地域の職住を支えていることを見学しました。

下川町では、循環型森林経営を目指しています。参加者は、2日間の訪問をとおして、SDGsに関する地域の取り組みや、カーボンニュートラル達成のための取り組みについて学びました。

森林組合北町工場
一の橋バイオビレッジ
木質原料製造施設