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今回は、つなぐ話。 第10回 ステークホルダーミーティングを開催しました

環境報告書2015より

2015年2月19日  百年記念会館 大会議室にて

北海道大学の環境への取り組みについて、学内外の関係者はどう感じているのか。率直に話し合う「北海道大学ステークホルダーミーティング」は2006年に始まりました。今回は「『環境報告書2014』の評価」「サステイナブルキャンパスとは?」「北大が内部や地域とつながるために」の3テーマを通じて、北大とそのキャンパスを、社会とつなぎ、未来へつなぐアイデアを出し合いました。

ご参加いただいたみなさま

※プロフィールは2015年3月当時。※敬称略

川本 思心

北海道大学理学研究院 准教授 高等教育推進機構CoSTEPでも科学技術コミュニケーションの教育・研究・実践に励む。

宮田 朋和

北海道大学国際本部国際支援課国際連携研究教育担当 学術交流の推進、外国人研究者の受入支援に関する事務を担当。(2015年4月より工学部国際企画事務室所属)

岡田 真弓

北海道大学アイヌ・先住民研究センター博士研究員 (2015年4月より創成研究機構特任助教)

小泉 絢花

株式会社スペースタイム 学術研究の広報支援とサイエンスコミュニケーションを実践する会社で主にデザインを担当。

猪瀬 巧

北海道大学理学部数学科2年 北海道大学生協常務理事 北海道大学生協学生組織委員会委員長

小篠 隆生

北海道大学工学研究院建築都市空間デザイン部門空間計画分野 准教授 北海道大学サステイナブルキャンパス推進本部 部門長

池上 真紀

北海道大学サステイナブルキャンパス推進本部 コーディネーター 2012年度よりサステイナブルキャンパス評価システムの開発等を担当。

ファシリテーター 今津 秀紀

凸版印刷株式会社トッパンアイデアセンター

昨年度の環境報告書は優?良?……不可?

今津 今日はまず『環境報告書2014』に「秀・優・良・可」の成績をつけて、その理由を教えてください。

宮田 優。「4 Questions」として、北大の理念に対する取り組みが詳細に書かれているのがいい。改善点と言いますか、全体として見解がまとめられ、「だからこうしていきたい」と打ち出してもいいのでは、と思っています。

小泉 私も優。いろいろな切り口から教員や学生の活動が紹介されているのがいい。逆に「北大として今何をやっているの?どの方向に向かっているの?」というのが一言でつかめなくてもったいないと思いました。

岡田 同じく優。サステイナブルキャンパスというと環境に配慮したキャンパスと思いがちですが、もうちょっと柔軟に考えようと伝わってくる。市民や観光客も含めていろいろなステークホルダーの視点を反映させると、北大がめざすサステナビリティキャンパスの全体像が見えてくるのかな。

小篠 良。一般の人たちがわかるように大学の今とこれからを伝える出版物は多分これしかない。10回も作ってきたのだから、大学がめざす方向とか今はこうだとか、もっと切り口をシャープにしてもいいんじゃないかと思います。

川本 ギリギリ優かな。学部教育に関することや北海道、札幌市との連携も書かれているので幅広い活動が見えた。それらがどう組み合わさっているかや、長い目で見た方向性、市内の教育への連携とかがあると良かったかな。

猪瀬 良。報告書というと数字がいっぱい書いてあるイメージがあったのですが、写真も取り入れられて見やすいものだった。でも、読んで訴えかけてくるものがなかった。「じゃあどうなの?」っていうのが正直なところです。

池上 優。『環境報告書』は毎年人気があり、インフォメーションセンターでも減りがいい。構成が効いているんだろうと思うのですが、北大だからできる教育とか、もっと強いものを出せたんじゃないかというのが反省点ですね。

今津 元々は国立大学法人の『環境報告書』が義務化されたんですよね。北大のレポートは、ベースは押さえながらも今後のあり方を考えていくということですね。

小篠 大学が何を強みと思い、それを環境という切り口でとらえて、もっと積極的に打ち出す話をこのレポートが誘導していってもいいんじゃないかな。

宮田 「こうしよう」と1個に絞るのは難しいけれど、方向性を打ち出していく必要があると思います。

サステイナブルキャンパスって何?

今津 次は「サステイナブルキャンパスとはどんなイメージか」という難しいお題。

池上 まず「サステイナビリティとは何か」を考えると地球温暖化の問題が根幹にあって、その問題はどう化石燃料の消費を減らしていくかに尽きる。再生可能エネルギーは、高密度に採れる化石燃料と違って薄く広がって存在しているので「新しい経済モデル、新しい社会モデル」がいる。いろいろな構成員がかかわることになり、NPOやNGO、ご近所や町内会の相互扶助、芸術の表現者も都市の設計者も入ってくる。こういう構成員になれる人、構成員をまとめていける人材をつくるのが大学の責任で、それをやっている大学のキャンパスがサステイナブルキャンパスだと思うんです。

猪瀬 サステイナブルということを考えたときに「残す」「続ける」というイメージがありまして「好きで残したいと思える」と書きました。義務感ではなくて「好きだから残したいんだ」と思えるように働きかけるものがあるべきだと思っています。化石燃料等のエネルギー問題ももちろん大事ですけれど、人の気持ちが持続していかないといけないんじゃないかな。

川本 「エコトーン」。2つの環境の間にある環境のことを言い、様々な環境が備わりつつ、移り変わる中で豊かな生態系が維持されているんですが、サステイナブルなキャンパスってそういうものかなと。多様な生態系があるけれど、こわれやすくて常に変化する。北大に関しても、いかに本質は失わないで動いていけるかが大事だと思いました。実現するために必要なのは「体力」。すぐには何にもならない何かが存在できる環境が、サステイナブルであるための体力になると思います。

小篠 浮かんだキーワードは「キャンパス界隈」。大学が地域と一緒に何かをやっていくときにテリトリーを定めてしまうのではなく、「界隈」という言葉が表現するように「ここまでがキャンパスですよ」という境界線が溶解していて「ボーダレス」になることが必要だと思います。そういう状態をつくり上げることによって、多様な価値観は共存するであろうし、市民も含めた多様なアクターがお互いをよく知る、あるいはお互いの課題を解決することができる。そういうところまでサステイナブルキャンパスは広がっていかなきゃいけないんじゃないかと思いました。

岡田 「学びの資源を創りつづける、持ちつづける、提供しつづける フィールド、空間」というイメージです。「キャンパス」とついているからには、学びの要素は外せないと思っています。北大の理念の1つが「フィールド科学を重視する」ことだと聞いたとき、すばらしいと思いました。北大という空間が持つ資源の豊かさは、環境、文化、歴史、といろんなところにある。それを教員等が見つけ出し、持ちつづけ、学生や社会に提供しつづけることが大事だと思いました。

小泉 サステイナブルキャンパスというと「節電に協力してね」とか、そういう活動をイメージしてしまうんですけれども、多様なステークホルダーがいる中で全員の意識を統一していくことは難しい。キャンパスのファンを増やしていくほうが良いのではないでしょうか。多様なかかわり方をする人たちがキャンパスを好きで残したいと思うことがサステイナブルキャンパスには一番大切だと思います。キャンパスには人間だけじゃなく野生動物もいます。動物がいることでさらにファンも増える。単純ですけれど「好き」という気持ちですべてをつないで好循環を生み出すのが、私の理想とするサステイナブルキャンパスです。

宮田 より多くの人を巻き込んでどうしていったらいいかを考えると、やっぱりかかわる人が一番関心のもつところに集中できる環境をつくってあげないと。勉強したり研究したり、地域の方が来たり、本来やりたいことに集中できる環境。その上でキャンパスが安全で安心で快適で、環境負荷も少なくて、なおかつ国際社会や地域自治体に貢献できる。そういうイメージで、本来「大学としてもつべき機能をよりよく実現できるための環境」と考えました。

小篠 大学の活動は本当にネットワーキングが重要になってきています。研究者同士も、研究者と地域の人たちも、学生とも。今はAとBだけだが、Cともやってみると新しい価値が生まれてくるね、と水平的なネットワークをつくることがこれからブレークスルーするかもしれない。

岡田 アイヌ・先住民研究センターと観光学高等研究センターの共同プロジェクトのtrueつに、歴史資源を掘り起こしてヘリテージトレイルをつくる事業があります。北大キャンパスでは、構内に残る遺跡や歴史的建造物などを辿りながら、キャンパスの歴史と文化を学ぶトレイルを作成しました。いろいろな研究の成果がtrueつになったヘリテージトレイルを使って、教員だけでなく市民も北大構内でツアーをやっています。ゆるやかなネットワークの中で、学問の成果も生かされていると感じます。

池上 教育研究の目的で研究者同士がネットワーキングするのは、チャンネルが合えばどんどん進むんですが、エコキャンパスの部分は構成員全員が同じように協力しないと成果が出ない。大学の本分である多様な教育研究の部分と「全員で等しく協力しましょう」というのはギャップがあり、難しいのです。

小篠 広大なキャンパスを使って新しいビジネスモデルをつくる企業が出てくれば、「入ってきて実績をあげてください。大学は企業が提供するサービスを共有します。」という関係をつくることはできるんじゃないかな。私たちが負っていることを企業側より供給していただきながら、私たちの知識を対価として払う。大学の不得意な部分はそういうサービスを提供できるところと組めばいい、と考えられますね。

学内で、学外と、もっとつながるために。

今津 最後は「北大が内部や地域とつながるために」。こんな人たちとこんなことができれば次のアクションができるんじゃないか、といったところを出してください。

川本 「市民参加型研究」。市民のニーズを受けて大学の資源を使って解決していく。直接的に自分たちの研究能力を生かしていく方向性です。直接的なコミュニケーションのチャンネルが多い方がサステイナブルになると思うんですね。北海道、札幌をどうしたらいいか、その価値を共有していくことが大事なんですが、使う資源はタダではなくカウンターパートからも少しずつ募る。そういった仕組みが必要なのかな。継続してやるには、理念とリーダーが必要になると思います。

猪瀬 「学生参加型の企画」。学生は北大に1万7,000人以上いますけれども、その学生が環境について興味をもったら、とんでもない効果が生まれるんじゃないかなと。企画の一例は「省エネパトロール」。各教室を回って電気の使用状況を確認していく。学生がおこなっていれば、学生たちはもっと親身に感じるのではないかと思いました。

池上 「大学と社会」。先ほど話したような新しい社会モデルの構成員を率いたり、構成員そのものになったりできる人材はどうやったら育つかを考えると、町内会にメンバーとして入って研究するのも、海外の少数民族の社会の研究をするのもありですし、そういう研究をされている北大の先生もたくさんいますから、多分そういう人が新しいノウハウや仕組みを思いつく人になる。キャンパス内で寮に住んでいる学生も、キャンパスそのものを研究フィールドとして研究できるので、候補になりうると思います。

宮田 「環境マネジメント」。職員の観点からすると「お金はどうするの?」が現実的な問題として出てくる。環境負荷に配慮する目標を設定して義務化すると同時に、がんばったところにはインセンティブの付与、つまり研究費を増やしてあげるとか、学生だったら留学やサークル活動にお金を出してあげて、ギブアンドテイクの形でやっていければいいのかな。財源として市民からファンドを集める形もすばらしいと思います。

小泉 「遠くにいるゆるいファンと近くにいるコアなファンの両方を増やす」。地域を海外まで広げて捉え、最終的にはもっと海外からの学生や研究者に来てもらえるよう、遠くにいるゆるいファンを増やす。一方で、キャンパスをフィールドに野鳥や植物のデータを継続的にとるような市民参加型研究をおこない、キャンパスの近くにいるコアなファンの心もつかむ。これから研究者はアウトリーチなどあらゆることが評価の対象に含まれていきますよね。大学力、ブランド力に貢献する市民参加型研究のような活動も評価の対象に入っていくのではないでしょうか。

岡田 「学内でゼロエミッション」。食堂を使う人たちに「割り箸の使用量がこれだけ減ったら、翌年の牛丼の値段は10円下げます」とか具体的な目標を設けたら、学生も教員も取り組みやすい。それを次につなげるのが「幸せとエコがつながった状態」。社会の課題に対応しやすい研究分野と、対応しにくい研究分野がある。そうした場合、社会と研究を結びつけるためのコーディネーターが「社会では今こういうニーズがありますよ」と両者の対話を促進する機能を果たせばいいのかなと思いました。

小篠 今いろいろな都市でシティーマネージャーの募集をしているんですよね。それを大学に置き換えたのが「キャンパスマネージャー」。業務はまずプログラムの企画。マルチコラボレーション型教育だとか研究の企画・運営をする。財源確保の知恵を絞る。キャンパスの内・外、両方に対するプロモーションを考える。それから、企業や行政とくっつけるマッチング。大学、キャンパスをどういうふうに物理的にデザインしていけばいいか責任をもつ。そういう人をマネージャーとして位置づける、あるいは組織をたちあげることが必要になってきているのかもしれません。

今津 サステイナブルキャンパスが何をめざすのかもう一回まとめた上で、こんな人材、こういうやり方というのを考えるタイミングに来ているんだろうと思います。すてきなアイデアをいろいろとありがとうございました。