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サステイナブルキャンパス構築のための思想と実践-大学にとって「地域」とは-国際シンポジウム2014 パネルディスカッションより

2014年11月25日に開催した国際シンポジウムのパネルディスカッションでは、札幌キャンパスの北エリアの照会を交えつつ、地域連携のためにキャンパスがどのように活用されうるのか、その可能性について議論しました。

パネリスト PANELIST

植田 和弘

京都大学経済学研究科 教授 Professor Kazuhiro Ueta, Kyoto University

アリアネ・ケニッグ

ルクセンブルク大学 教授

Dr. Ariane Koenig, University of Luxembourg

森 政之

文部科学省大臣官房文教施設企画部計画課整備計画室長

Mr. Masayuki Mori, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology of Japan

生島 典明

札幌市副市長

Mr. Noriaki lkushima, Vice Mayor, City of Sapporo

吉見 宏

北海道大学経済学研究科 教授、経済学研究科長

Professor Hiroshi Yoshimi, Hokkaido University

小篠 隆生

北海道大学工学研究院 准教授

Associate Professor Takao Ozasa, Hokkaido University

コーディネーター MODERATOR

小澤 丈夫 北海道大学工学研究院 准教授 Associate Professor Takeo Ozawa, Hokkaido University


小澤:私、ただいまご紹介いただきました北海道大学工学研究院の小澤と申します。パネルディスカッションのコーディネーターをさせていただきますので、よろしくお願いいたします。「サステイナブルキャンパス国際シンポジウム」の歴史を簡単にご紹介しますと、最初は2011年。ポートランド州立大学、オレゴン大学、カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学、アメリカの4つの大学を、日本からは、工学院大、千葉大、名古屋大、九州大の4大学をお招きしました。主にアメリカの大学をお招きしてお話をお聞きしディスカッションしたという経緯があります。それに対して2012年はヨーロッパからトリノ工科大学、ケンブリッジ大学、アムステルダム自由大学の3大学、これに文部科学省の文教施設企画部整備計画室、ならびに札幌市副市長の生島さんにお越しいただきました。それに北大が加わるという構成で行いました。昨年もヨーロッパの3大学という構成は同じです。これに東京大学の出口先生を加えまして、文科省の文教施設企画部整備計画室、ならびに札幌市市長政策室の佐藤さんをお招きしました。過去3年間、さまざまな大学の取り組み等々をおうかがいして、いろいろな知識等の蓄積ができました。今回は4回目になりますので、もう一歩踏み込んで、キャンパスをどうしていこうかと、そういった話にしていきたい、と思っております。今回は先ほど基調講演をいただきました京都大学の植田先生、ルクセンブルク大学のケニッグ先生をお招きして、今こういうメンバーでさせていただきたいと思っております。

さて、本題に入っていきたいと思いますが、基調講演を二ついただきまして、まず植田先生とケニッグ先生にお聞きしていきたいのですが、サステイナブルキャンパスとはどういうものなのだろうか。先ほど質問のときに植田先生から「成熟期の日本において出すべき答えがあるだろう」といった提言がありましたが、改めて今我々が求められているサステイナブルキャンパスとは何かというところを掘り下げていきたい。植田先生のお話の資本、資産という中に、人的資本、知識、自然資本等ありましたが、特に私が興味を持ったのは、人的資本、これは一体サステイナブルキャンパスにおいてどういうものなのか、それからどのようなディベロプメントの概念転換というものがサステイナブルキャンパスをめざす上で必要なんだろうか、そのあたりをサステイナブルキャンパスと大学というところに落としてお話しいただけないでしょうか。

植田:はい。最初からとても難しい問題を聞かれましたが。ちょっと斜めから答えるようですが、僕は、大学は人でもっていると、大学イコール人だというふうに思っています。ですから、同時に大学が、その人を生かせる大学かどうか、ということが問われている、ということだと思います。サステイナブルキャンパスは、多少私は大学の理念とかそういうことを勉強したりしましたが、理念にも謳われていると言ってもおかしくないと思っています。ですので、社会や世界に貢献する側面も含めて、サステイナブルキャンパスを実現するというのは非常に多様な内容を含むもので、もちろん物的な意味でも、よりサステイナブルな施設、あるいはその施設の使い方、具体的にはエネルギーとかは大事な話で、それはそれでやらないといけないということだと思いますし、同時にそれをやる過程が、僕は大学らしい取り組み方があっていいかなと思います。それに取り組む過程が、若干クリエイティブな大学の知識が活用されることがあってもいいし、取り組まれることから新しい知識やスタイルみたいなもの、様式みたいなものが出てくるということも含めた取り組みがあってもいいかなと。それを担うのが人材です。人的資本というのは、元々ベッカーとか経済学者が使い出したときは一種の労働力の価値みたいな話と結びついている話でしたが、私が申し上げたのは、まさにサステイナブルキャンパスみたいなものをつくる担い手というのは、そもそも僕自身もそうですけれど、サステイナビリティという言葉が出てきて、あ、そういうふうに考えないといけないのだなというふうに、サステイナブル・ディベロプメントを含めて、サステイナブルキャンパスという言菓は、どういうキャンパスをつくるかというときに一種の方向性を示す言葉として、これが与えられたときに、よりわかるようになった部分と悩むようになった部分があると思いますけれども、それを検討していく過程自身が、人材育成プロセスでもある。こういうふうに思っているしだいです。

小澤:おそらくそういった人的資本、そういった人材が育成されていくことで地域とのかかわりも当然できてくるというように考えてよろしいでしょうか。

植田:先ほど申し上げたように、資本、資産という考え方は、少し拡張すると、社会関係資本というものを入れるという議論もあります。ソーシャルキャピタルという議論ですね。社会関係は資本と言っていいのか、いろいろ検討すべきこともありますが、たしかにどういう社会関係がつくられているかが、大学にとっての活用すべき資産みたいな面があることも事実のように思います。ですから、地域社会とどういうかかわりをもっているか、どういう関係を取り結んでいるかということ自身が、とても大きな意味をもつわけです。だから物理的に見るとなんの変化もないように見えて、ものすごいヒューマンネットワークがあって、その地域社会との間ですごい関係がつくられているとすると、それはとってもすばらしいことです。ケニッグさんの説明の中にも、大学が出て行って一種の地域再生を共同プロジェクトでやるというお話がありましたが、そういう関係をもつというのは、大学に対してのすごい信頼がベースにあるように私には思えます。だって「この大学に頼んでも何もやってくれへんやろ」思ったら、頼みませんよ。だから、それは多分先人が培ってきた関係みたいなものが非常に重要な役割を果たしていたと思います。だから我々、何を資産と考えるかは、もっと広げていける話でもあると思います。そういう意味で地域社会との関係自身が資産になる。

小澤:ありがとうございます。そういった大学との関係が蓄積されていくことが大事だと、信頼を生むというお話の一方、先ほどアリアネ・ケニッグ先生にご説明いただいて、あ、なるほどと思ったんですが、サステイナビリティ・サイエンスというのを一つのコンセプトとして、今回まとめてお話しされました。おそらく大学として、きっちりコンセプトとしてまとめて、このような形で発表して実践されるということで、社会的な信頼につながっていくと思います。講演では大きな概念的な話が中心でしたので、これをもう少し掘り下げて、具体的に今回ご紹介いただいたブリティッシュコロンビア大学、あるいはルクセンブルク大学などで具体的にどういった考え方、活動がどう教育に結びついていくのか、そういったお話も例をあげながらお話ししていただけますか。

ケニッグ:はい、サステイナビリティ・サイエンス2.0というのは一つのプロセスです。ルクセンブルク大学においては、最初のピアグループプロジェクトを構築しています。問題ベースのさまざまな学習の機会も提供されますし、そしてそれがスタディプログラムの中で統合されるという形となっています。まずプロジェクトを定義付けする段階でステークホルダーもかかわってきます。大学の中だけではなく、外部のステークホルダーにも関わってもらいます。太陽光発電のコアプロジェクトがあります。実際私たちはルクセンブルクにあるCOOPで法人化して太陽光に投資する取り組みをしております。そこでサイエンス、またさまざまな情報をまとめて、専門家とともに大学の専門家、そしてまたCOOPの人たちと一緒になって問題を解決しています。COOPのメンバー等と一緒に取り組むことで、経験ある人をモデルとして使って、コミュニケーションをとっていくことになります。それ以外の市民がそれによってインスパイアされ、似たようなプロジェクトが生まれることにもつながります。それは大学ベースのいろんなプロジェクトが発生していくということで、そしてまた実際、屋上を使って太陽光を使って、また投資が市民によってなされるという流れができてくるわけです。地域社会と市民を通じて、再生可能エネルギーのプロジェクトが作れるわけです。で、キャンパスネット・ポジティブになるかどうかわかりませんけれども、多くの市民が投資すれば、進展があると思います。正しい方向への一歩であるというふうに思っています。ですから、さまざまな方法の多様性も必要ですし、先人へのかかわりも必要ですし、そしてまた正しい太陽光発電の方式を知っている物理学者も必要です。ステークホルダーもいろんな人たちが必要です。ワークショップなどを通じて、これが正しいのか、それとも風力に投資すべきなのか、常にいい意味で建設的な批判的な志向をもって質問をし続けるという形をとっています。

毎年セメスターレポートに、プロジェクトを4つ選びまして、前の年に当事者と準備をいたします。でもプロセスはプロ化したいんですね。当事者だけではなくて。

もう一つの例を申し上げますと、チューリッヒ、スイスの大学です。「2,000ワットの社会」という概念を創り出そうとしています。今スイスではたしか、だいたい1人当たり6,000ワットぐらいの電力を使っている。それを2,000にしようというわけですから野心的です。すべての市民が参加してエネルギー消費量を1/3にするのです。バーゼルとチューリッヒと協力して毎回、関心をもつ科学者、そして市民と市役所の人たちで課題を示すのです。じゃあ、何を私たちは変化させる準備ができているのか。で、どういう研究が必要なのか、これを実現させるためには、どういう研究があったら地域社会は変わっていけるのか、と考えます。すべての市民が投票いたします。そして、2,000ワットの社会に同調するという賛成票を投じますから、大学が創り出したコンセプトではありますけれども、皆で選択するのです。だからバーゼル市、チューリッヒ市が選ぶというわけです。ジュネーブもたしか3番目の都市として参加したと思います。ジュネーブはボトムアップでチューリッヒはトップダウン。規制で決めてしまうというのがチューリッヒだったと思います。だから、実行方法はそれぞれなのです。大学の科学者も参加して科学の課題を地域社会に提起をして、ゴールに達しているかどうか定期的に評価もするわけです。

小澤:今のようなプロジェクトは学生も一緒に取り組んでいるんですか。

ケニッグ:ええ。ただ、私たちのコースでは、サステイナビリティの社会学習の修了証書を与えています。具体的には修士号に近いんですが、15人のプロが自分たちの日々の仕事の上にやるということを推奨しています。15人の学生は年齢が20歳から70歳で、退職した人もいます。農業をしていた人たち、そしてエンジニアの人たちですとか、物理学者であったり、ありとあらゆる職業の人です。この証書はコミュニティで出します。ピアグループのプロジェクトでは学位と別途にやることになります。あるいは、当事者として、私たちは人材の配置をテーマに沿って考えます。ピアグループの専門知識をもっている人たちを配置したり、あるいは太陽光のプロジェクトであったらビジネスマンにも参加してもらうとか。投資のノウハウのある人も参加してもらったほうがいいこともある。自分の研究をしながら、地域社会の課題解決プロジェクトの当事者としても参加する。またスーパーバイザーとして専門家が入ってくるということ。大臣にインタビューに行こうなんて言いだして、私たちがびっくりすることもあります。全部が実現するわけではないですが、アイデアを出すと、本当に楽しいですよ。

小澤:これまで大学が行ってきた、教授が学生に講義をするというスタイルとはまったく違って、新しい形の大学と地域のかかわりであり、教育であるということですね。まさにそれを実践されていると理解しました。

ケニッグ:そうです。またピアグループのプロジェクトの枠組みとして、専門家のコースも組み込んでいます。このグループは学生のグループだったり、あるいは参加者のグループであったり、証書を求めている人たちであったり。でも、正しい専門知識がなければなりません。だから、「注意深く系統的に追究をしなさい、そしてまた、情報の質ということもちゃんと考えておかなければいけない」と強調しています。学術的な指導もします。ただただ人が走り回るというだけではなくて、やっぱりしっかりとした科学的枠組みの中にはめるのが大学、あるいは大学の専門知識、科学です。

小澤:ありがとうございます。非常に先進的な取り組みを紹介していただきましたが、北大ではこれまでどういうことをしてきたのかということに話を移していきたいと思います。小篠先生から’90年代以降、北大がどういうことをしてきているか、ご紹介いただきます。

小篠:今の植田先生、それからケニッグ先生の教育プログラムの話ではなくて、環境整備について少し話をしたいと思います。大学の中に小さな川が流れていますが、それを再生させたプロジェクトです。北大にはキャンパスマスタープランや大学の環境整備方針があって、なんとかこの川を再生させたいという想いがありました。一方、札幌市は、札幌市の下流域の水質が、都市化に応じて悪化してしまったことから、その水質改善を目的として、水と緑のネットワークプロジェクトという計画を立てていた。それは当時の建設省のプログラムでもありました。ただ、実現する見込みはあまりなかった。下流域の水質を改善させるには、上流域から下流域に水を流すルートがつくれれば、下流域の水位が上がるので、水質が改善すると考えられていたけれど、そのルートを探すのは非常に難しかった。そこで、大学の中の小さな川を使って水を流して下流域に到達させれば、それができるんじゃないだろうかというアイデアが浮かんだわけです。一方、大学はなぜ川を再生させたいのかと言うと、川縁に棲んでいる動植物を、大学の研究者・学生が研究する材料にしていて、また、北大は公園みたいなキャンパスですから、そこを散策したり楽しむ人たちもいる。そういう大学の教育・研究と地域社会の人たちに対しての環境の提供みたいなものの2つが呼応しながら、大学までの導水は札幌市がお金を出し、大学の中の川の再生費は大学側が出すことでプロジェクトが成立したということです。

これが導水されたときの様子ですが、人がたくさん集まって、非常に注目されたプロジェクトになりました。非常に環境のいい水辺の空間が再生され、子供たちが遊んだり人々が休んだりするところになっている。普段から子供たちが遊びにきているスペースもあります。これが地域と大学が協働して環境整備が行われたひとつの事例だと思います。

小澤:会場に北大の学生もいますが、こういった経緯と意味があって整備されたものであることを、じつは意外と若い学生は知らないと思います。実際、北大が行ってきたことは非常に重要なことですし、これは一つの成功例ですけれども、このような枠組みをどのように継続して、また次の活動に移していくことが問われるのではないかと思ってお聞きしました。そういう観点から、地域と大学の共生、大学が独自に考えて地域と一緒に財源を確保しながらさまざまな取り組みをしていくということが求められています。この点について、国の方針、国としてはどういうふうにお考えかを森室長におうかがいしたいと思います。

森:ここまでの議論を聞いていて、二つの視点があり、どちらかはっきりしていないと発言がしづらいなあ、と思っています。一つはサステイナブルキャンパス室が活動している、大学と社会が共に持続可能であるための取り組みを行うという視点と、あとは、そういった場となるキャンパスを地域連携のもと整備するといった視点がありますが、今、後者のほうで聞かれたということでお話させていただきます。地域と大学が協力して施設を整備する事例は、多様なケースが増えてきています。元々は産学連携、共同研究のための施設が整備されていますが、最近は地域活動拠点としてのオフィスを大学の中に整備するということですとか、遠隔地に患者さんがいたときにヘリコプターで救助に行けるように、救急対応のためのヘリポートを自治体の負担で大学病院等につくることもあります。さらに、自治体負担で地域の方も使える保育所を大学内につくるというケースもあります。資金的に自治体と連携するというのはバリエーションがかなりあると思っていますが、今後の形として、イノベーション・ハブを、大学の知識が地域につながりやすくなるように、ぜひとも大学の中心に拠点としてつくってもらいたい。そうすることが、地域社会と大学との協働に最もつながると思います。そういったスペースを大学が、大学の中心の位置に確保することを計画し、自治体が財源的に支援されれば、すばらしいことだと思います。この他、地域社会も共同で使える体育施設やジムを、大学内に整備するなど、さまざまな試みが考えられます。

現在、学術とか科学技術の振興のためにさまざまな審議会が行われていますけれども、その中で、私が聞いている中で委員の方から言われたのが、大学の外の方から見ると、大学はやはり敷居が高い、もっともっと自分が大学に行ってみたいと思うが、定期的に継続的に自分がレクチャーを受けることなどがないとなかなか大学に対して期待がもてないということをおっしゃっていました。そういった意味で、地域は大学の知識を求めていて、そのためには大学側として定期的かつ継続的に知識を移転するような事業を継続していかないと、民間の方たちは期待を持てないと思います。

小澤:ありがとうございました。そういった国からの目線も確認しましたが、では北大では実際どういうことができているか、と具体的に考えていかなければいけない。地域行政どのような協働をできるか、どういったことを還元できるか、何を発見していけるかということですが、その点について、吉見先生からお話をおうかがいしたいと思います。

吉見:今回はこのシンポジウム、サステイナブルがキーワードですが、やはり環境の問題をかなり越えていますよね。今この話をしているのは、地域と大学が一緒になって、その地域の中で大学がどうサステイナブル、つまり、ずっと維持していけるのかということを考えないといけないという、より広い視点になっていると思います。私に座長から与えられたのは、地域との関係をどう考えるかということを話せという課題ですが、ずっと産官学協働を大学は言われていました。今も森さんからお話がありましたように、民、民間企業あるいは官、自治体とか国とか、こういったところと大学はいろいろやっていかなきゃならないと。そういう中で、地域にとって大学は何かというと、じつは一つのパターンは、大学があることが地域のためになるという考え方があった。特に地方都市の場合はとにかく大学を誘致したがるわけです。大学が来てくれれば、人も増えて、若い者も増えて、街が活性化していく、すなわち大学が来れば地域おこしができる、サステイナブルになると思われていたところがあって、それは各首長さんとか議員さんとかはみんな賛成するんですが、特に地方ではそのモデルというのは、残念ながらもう崩壊していると思います。これはもう北海道にいらっしゃるみなさんご存知のように、すでに北海道の地方都市からは撤退している大学がありますし、さらに撤退があると聞きます。あるいは東京近郊であっても、東京理科大が埼玉のキャンパスから撤退を表明するということが起こって、大学を呼べばサステイナブルになる、あるいは大学がいることが地域との協働なんだということは、もうなかなか難しくなっている気がします。特に大学をつくるときには、本当に田舎につくってしまう。その結果、何が起こったかと言うと、そこは本当に豊かな大学町になるかというと、ほとんどならない。残念ながら。学生も住みませんし、遠くても通っちゃいます。なかなか地域に根ざしたサステイナブルなキャンパスをつくるというところまで至らずに今に至っているという状況です。

一方で北大ということを考えたときに、多分北大がまず考えなきゃいけないことは、「来てください」と言われて来た大学というよりも、すでにある大学で、札幌の街の中心にずいぶん広大なキャンパスを抱えているという、たいへん日本でも希有な大学です。ですから、札幌市にとってはこの大学がどこかに出て行くとか、あるいは、このキャンパスがなくなるとか、あるいは誘致しようとかいうイメージよりも、すでにここにあるキャンパス、ある大学をどう生かしていくのか、そして、この札幌ないし北海道という土地にどう生かしていくのか、協働していくのかっていうことが課題になると思います。そういう視点で北大を考えたときに、先ほど森さんのほうから「大学は敷居が高い」という話がありましたが、キャンパスという意味では非常に敷居の低い大学です。観光地になっていますから、観光客はたくさん来る、土産物も売っている。市民は、秋になると銀杏を取りに来たり、キノコとりに来たり。そういう意味では敷居が低いんですが、一方で研究となると、敷居が高いと少々言われます。これは大学が大きすぎるんだと思います。たとえば「こういうことを聞きたい」というときに、誰に聞けばいいのか、どこに聞けばいいのか。個々人や会社だけではなくて、おそらく市あるいは道とか官の側から見たときにも「こういう課題があるのですが、これは北大のどこでやっているんでしょう?」ということがわからない状況になっている。一方で大学側もはっきり言えば、一元的に管理していないと思います。大学のどこかにワンストップで電話をかけて「こういうことは?」って聞いたら、「それだと、あ、この先生がこういう研究をされていますね」とポンと答えられるセクションは多分ないと思います。あまりに広すぎて、理系から文系からあらゆることを知るっていうことはない。

そして、理系や文系でやっぱり研究者の研究のあり方が違うんです。つまり、外への自治体とか会社へのアプローチも違いますし、外国とも違います。たとえば私がやっている経済の分野だと、アメリカの場合は、企業の取締役になって、在職のままとか、あるいはいったん辞めてまた大学に戻ってくる。役所にも、役所の職員としていったん出て、また戻ってくるとか、そういうことがしばしば行われますが、そういうことは日本の制度上ほとんど不可能です。国立大学の場合、会社の取締役になるといったら、それこそ敷居が高くて事実上不可能です。そうすると、研究を一緒にやると言っても、外から覗いたり書いたりすることしか事実上できないというのが今の状況だと思います。一方、理系は、共同研究のために、設備等を共有していろんな研究成果を出すということがあるので、企業のほうもお金も出しやすいし、一緒に研究もしやすい。ただ、行政との関係になってくると、これが難しい。なかなかそういう形でもっての関係ができにくいというのが今までの現実だったと思います。

そういったときに課題として言えることは、今の状況を前提として考えたときには、お金以外の協力っていうのも必要なんじゃないかと思います。それから、本当は大学というのは知の巣窟と言いますか、いろいろな情報を、知識ベースのことを我々もっていますから、そういったものを、物じゃなくて、そういった知識とが情報をたとえば外で買っていただくような仕組みもいると思います。残念ながら行政も、もしかしたら企業も、日本では情報をお金で買うという考え方がないですね。ですから、大学がやることに関してはタダというのが前提で、大学の先生から出てくる情報は基本的にタダでもらえるものと理解している。大学がもっている情報をうまく発信し、それを民間なり役所なりが買っていただけるような、そういうスタイルがつくれないかなあと、思っているところです。

そういう意味では、まずは人の流通、人の流れをなんとかできないかと思います。これはけっこう難しい面も現実にはあります。大学から直接的に人が出て行くっていうのは、今日本の場合、かなり限られています。また、大学に人が来るというケース。これは少しずつ出始めています。しかし、それをグルグル回すという動きはまだ日本ではできない。たとえば市役所の職員の方が北海道大学で教え、そしてそのまま企業に行くとか、その逆の流れとか、なかなか難しい面があります。それから、お金。企業と大学の間っていうのは、それなりの流れが特に理系の分野ではできているかもしれませんが、文系ではなかなかそこが流れにくい状況にある。特に行政から大学に対しては、先ほど森さんからいろいろな保育所の例とかご指摘がありましたが、これはどうしても箱になってしまう。何か物を造るために建設費を出しますというふうな閲係になってしまう。それ以外の形で地元にアイデアや知識、そういったものを創り出すことで協力はできないのかと考えてみるんですが、なかなか枠組みが難しい。

この情報の問題はわりとできやすいのかなと思います。情報をうまく共有できることが、地域の協働のときの最初にできるベースと思います。そういう意味では、行政との関係でと課題を与えられましたが、行政がじつはけっこうカギを握っている。別に大学の責任を放棄するつもりはまったくありませんが、行政の方とどうやってうまく動けるかということが、産や学をつなぐ紐帯になりうる。一方で大学はもともと紐帯でもありうるわけですよ。官というところもひとまとめにしていますが、実際には、札幌でも市があり、道があり、それから国の出先機関があり、ひとくちに経済に関する行政と言っても、それこそ縦割りでバラバラにやられていたりする、重複しているじゃないかというところもままある。そういったところを横に眺めることができるのは、まだ大学の強みでもあります。総論としてはこんな感じでしょうか。

小澤:ありがとうございます。このあたりで行政の立場から、札幌市の生島副市長のお話をおうかがいしたいと思います。札幌市とは、2013年7月にまちづくり連携協定を締結したということで、実際に動き出している中で札幌市として、どういった取り組みをされようとしているのか。また、北大に対してどういうことを望まれるのかをお話しいただきたいと思います。

生島:今までいろんなお話がありました。吉見先生から「大学が存在していることが必ずしもプラスではない」というお話がありましたけれども、札幌と北大との関係で言うと、開拓の歴史を考えても、北大と札幌との関係というのは切っても切り離せない関係だろうなというのは、まさしく市民の共通の認識ではないかと思います。それはただ感覚的な問題。じゃそこでどうやって札幌のため、北海道のため、また世界のために北大の力を生かしていくかと我々も考えているわけです。今までの札幌、行政と北大の関係というのは、北海道大学という大学というふうに総称として言ってはいるが、実際は、先ほど吉見先生の話がありましたように、たとえば審議会の委員をお願いするという、個人的なつながりというか、一人一人の先生との関係の中で全体が整理されてきたという課題があります。そこで、2012年のシンポジウムのこの場でそのような発言をさせていただいて、そうではなくて、札幌市という組織と北海道大学という組織が連携をするという、そういう土台をつくる必要があるのではないかという発想の中で、翌2013年に北海道大学と札幌市のまちづくり連携というきわめて包括的な、よく言うと、なんでも来いというような協定を結ぶに至ったというところです。そういう意味では、組織対組織の第一歩が2013年にスタートしたということと思っております。それで、今実際にどんなことをやっているかというと、いわゆる福島の事故を契機としてエネルギー間題が非常に大きな問題になっているわけですが、半世紀先の札幌におけるエネルギーというのはどうなっているのか。それを描いてみようじゃないかという活動が今行われています。さっぽろエネルギー未来構想というのを今策定しているわけですが、そこの研究にあたって北大の先生方のご意見をたくさんいただいております。それで北海道大学の一つの特性として、きわめて広範な学問、総合的な大学だということですね。エネルギーとか環境という話をすると、非常にたくさんの学問領域が関わってきます。ですから先ほど言った審議会の一人一人の先生を頼んでというレベルじゃもうない。したがって、工学部、理学部、経済学部等々、たくさんの先生方の力が必要で、まさしく組織対組織の関係でなければできないなということです。その意味ではこの連携協定の第一歩の仕事として、エネルギー未来構想を策定したのは、意味があるのかなと、やや自己満足的に思っています。

それで今後に向けてですが、この絵を見ていただきますと、まず札幌市が今どんな課題を抱えているかというのが左上に書かれています。これは札幌市というよりも、先ほどたくさんの皆さんからお話がありましたけれども、まさしく人口減少社会、高齢化、少子化、そういう未来像っていうのが確実にやってくるっていう、こういう中でどうやって、ま、ここでは経済の活性化というふうに占いていますけれども、どうやって市民が幸せに暮らしていくかというのが一つ、大きな問題としてあります。それともう一つが低炭素社会、原発に頼らない社会の実現というのも、これも日本的、もしくは世界的な課題。そういう課題を我々も抱えているということになるわけです。先ほどより、いわゆるグローバルな課題とローカルな課題というのがありましたけれど、そういった意味でいくと、これはグローバルな課題でもありますけれども、まさしくローカルな課題でもある。そういうローカルな立場でどういうアプローチをするかという課題を抱えているということなわけであります。そういう中で、これはもう行政だけで解決できるような問題ではないぞという中で、この下のところに北海道大学さんと札幌市のいろんな果たすことができる役割をコラボレーションして何かをつくっていく、何かそういう課題を解決していく、なんて言うかですね、これは非常に仮の姿ということでありますけれども、北大とそういう組織ができないかみたいなこともですね、いろいろ構想としては考えられるのではないかということであります。

そういう中で我々が目指すものとしては、たとえば若者が働く新たな場の創出。札幌の今の状態は、非常に若い世代の男女比というものがものすごく違う。若い男性は職を求めて札幌市以外の北海道外に勤めるという問題が生じています。そうすると若い20代、30代世代で男女の比、差が10万人ぐらい女の人が多い状況です。北海道で見ると、地方から女性が教育を受けるため、大学に通うために札幌に出てきます。そして、出身地に帰らないで札幌にいるわけですよ。そうすると女性が多くなる。で、先ほど言ったように、男の人は働き口を求めて本州に行ってしまうので、非常に人口的なアンバランスが今生じています。じつは私、息子が二人いますが、二人とも東京に行っています。まさしく個人的にも「どうにかならんかな」という課題ですが、そういった意味でいくと、新しく若者が働く場を創らないといけない。それと、新しい技術的なイノベーション、それを産業に結びつけていく、そんなような働きも、札幌市と北大のコラボレーションの中で解決していけるのではと考えているわけです。それで、連携協定が去年できて、今は第一歩としてエネルギー未来構想みたいなことを始めているというお話が先ほどありました。これから具体的にどのような形でコラボレーションを進めていくかというのは本当にこれからの話です。本当に新しいことにどんどん取り組んでいくことを札幌市もやっていくことが必要なんだろうなと考えます。

小澤:たしかに札幌市さんが抱えている課題は、個人個人の教員とか各部局では解決できませんので、横断的に考えて、その課題を受けとめられる仕組みづくりが求められるだろうと思います。今のお言葉は「北大、ちょっとしっかりした体制をつくれ」というハッパをかけていただいたものと思いますが、そういう目で過去のシンポジウムを振り返って、一つ思い出されるのは、昨年のシンポジウムでプレゼンテーションがあった「柏の葉」。大学と都市、これを同時に考える組織の必要性を感じて、「アーバンデザインセンター柏の葉」 (UDCK)を立ち上げ、産学官、この三者が一体となって新しい取り組みをしているという実例です。ある意味これは日本において非常に先進的な取り組みだと思いますが、このあたりを国の視点から、森室長に伺いたいと思います。

森:とても典味深い取り組みだと思います。「柏の葉」の場合、新しくキャンパスをデザインする機会があって、また、その地域においてキャンパスの占める比重もかなり大きいということもあって、冒頭から一緒に協働する形で進められたと理解しています。こういったキャンパスをつくるという立場と街をつくるという立場が共同で考えるということは、どこでもやってほしい。全国でマスタープランを地域と共同で考えるという取り組みが進めばいいなと思っております。キャンパスは、事業所として見れば、地域最大の事業所であったりしますし、地域に対してインフラ等で負担をかけているという面もある。それで昔からタウンとガウンの話があったと思うんですけれど、今回のケースのように、一緒にまちづくりに取り組むことは概念としてはありえましたが、ここまで深く人も送り込んでやっているというのは興味深い事例だと思います。

小澤:ありがとうございます。そういう形で柏の葉、UDCKが認知されつつある。これは非常に大きな出来事で、次に対するステップと思われます。ただ海外に目を向けますと、必ずしも日本だけでなく先進的な例があると思います。そのあたりを小篠先生から事例紹介をしていただけますか。

小篠:まず、ポートランド市とポートランド州立大学がどういう取り組みを行っているかですが、なぜポートランド市の話をするかというと、札幌市と姉妹都市だからです。サステイナビリティなことに関して、ポートランド・サステイナブル研究所というのは半官半民の研究所です。そこに開発コミッションからお金が出ていく。一方、ポートランド市からはいろんな事業が委託される。さらにここがポートランド州立大学のサステイナブルオフィスだとか、サステイナブル・ソリューション・センターだとか、それぞれの研究室に対して委託を行い、答えを出していく。というような形で具体的な事業を進めているものがあります。企業がポートランド開発コミッションに相当な投資をしていて、そのお金を大学のほうに回すというような形にもなっているということですね。だから市の予算をそのまま入れていくということではなくて、市はある程度ポリッシュメーキングのところを担っていて、そこから大学のほうに具体的なソフトあるいはハードの答えを出してください、というようなことを行って、一方で企業のほうからはコミッションを通してお金が入っていく。というような、こういう二つのお金の流れになっていることがございます。

次は、イギリスのイングランド北部にあるブラッドフォード大学です。ブラッドフォード大学は、都心にある、北大みたいなところに位置している大学ですが、街自体が非常に疲弊してしまった。昔は毛織物産業で非常に有名だった街ですが、それが完全に衰退してしまって、中心市街地が空洞化している状況です。それを市としては、なんとかしたい。ここに都市再生の組織をつくって、それをやるための都市再生会社もつくる。という形で都市再生を進めていきたいし、行政のほうから、国のほうからそこにお金が支援されるということまでは進めたが、やはり大学が動いてもらわないとしょうがない。例えば、大学の学生寮。学生寮計画と言っていますが、その次に一般の市民も住めるようなハウジング計画を同時にやっていこうとしている。敷地は大学の敷地と、市がもっていた敷地を合わせて開発をしていこうとしているので、共同で開発していかないとできない。その計画提案を大学から求めたり、資金提供を大学にしたりというような関係性をつくっている。もう少し広く言うと、住宅だけではなくて、その周辺に小さいカレッジとか公共施設もありますが、その公共施設、それから小さいカレッジも含めた地区を、日本語で言うと文教地区、ラーニング・クオーターというふうに呼んでいるんですけれど、そこ全体を開発できるような計画づくり等をやって、市としては都市計画としてそれを認知すると。そういった中で具体的な財政支援をしながら、開発をしていく、というようなことがすでに進められているということです。

次に、実はもっと大きくイングランド全体の話として、中央政府からどうやって計画を落としていくかというようなことの中で、ローカル・ディベロプメント・フレームワークという枠組みがあり、その中における一つの事例が先ほどのチャートになっているわけです。行政は、地方行政だけではなく、国からやはり地域の空間戦略をつくれ、どうやって都市再生をしていくのかっていうのを示せという中に具体的に大学もちゃんと組み込むというような姿勢が見られる。ですので、やはり具体的に行政と大学が組みながら、都市再生を行ったりすることを市としてはやらないと「いけない。先ほどのポートランド市では、全体的に環境負荷低減をやっていかなくてはならない。その中で大学にまずモデルをつくってほしいということから、サステイナブル・ソリューション・センターが具体的なアクションを起こしましょう、というような話になっている。そういう具体的にプロジェクトを実行するために大学の中に研究所がある。そこはかなりUDCKと似ているところがあって研究所がシンクタンクになっていて、具体的にどうプロジェクトの構想を立てればいいのか、どういうふうに対処していくのかっていうような話がつくられていくことが海外ではいくつかできているということが言えると思います。これは多分ルクセンブルクも似たような形でニューキャンパスを開発しているのではと私は推察していますけれども。

小澤:ありがとうございます。もちろん各国、都市によって、行政を動かすシステム、制度等も違いますし、物理的なキャンパス、あるいは周辺の環境も違う中で、一つ一つのキャンパスに合わせた、大学に合わせた状況を見ていかないといけないと思われます。かなり組織的にしっかりと立ち上げた上で、予想する以上のことに取り組んでいらっしゃる。そのあたり、参考になると思います。ポートランド州立大学は札幌市とポートランド市は55年というかなり長い姉妹都市の関係を持っています。その中でも今年の6月に上田札幌市長が視察し、今話に出ましたサステイナブル・ソリューション・センター、そちらのほうも視察されたということです。ポートランドの州立大学とポートランド市の取り組みを今札幌市でどのようにとらえていますか。

生島:ポートランドと札幌市の姉妹都市の関係というのは、55年、半世紀を超えたという長い歴史があります。ただポートランドの姉妹都市の交流は、ほとんど民間の人が構成する姉妹都市委員会との交流ということで、まさしく市民レベルの交流が主でした。それで都市の地方自治制度の違いもあって、ポートランド市が進めている政策を札幌市の政策に取り入れることは、なかなか進んでいなかったのが現状です。たとえば軌道系の交通機関が非常に発達しているのは先進都市だよね、みたいな議論は常にあるんですが、大学というものがまちづくりにどんな役割を果たしているかということについて、あまり知られていませんでした。それで、市長も12年間市長をやっていますので、何回もポートランドに行っているわけですが、しっかりまちづくりについて見てみようといったときに、その大学との関係が非常に参考になるという勉強をして戻ってまいりました。したがって、現実の姉妹都市の中でポートランド市から学ぶことの一つの大きな要素として、大学との関係があると認識を改めているところです。

小澤:ありがとうございます。そうしますと、我々大学のほうもいろいろな課題を受けとめる、協働していく体制を考えなくてはいけません。札幌市もポートランドを見ながら、そういうことを考えられるスタートラインに立たれたということですね。今までのお話の中でちょっと私が気になってきましたのは、もちろんその都市、国によって状況が違いますので、これからローカルとグローバルの関係をもっと精密に考えていかなくてはいけないということです。たとえば大学、地方自治体、国、こういった関係というのは、場所によってかなり違ってくる。その中でその関係をきっちり抑えつつ、大学、地方自治体にできることは何か、ポテンシャルは何なのかということを真剣に考えていかなきゃいけない。アリアネ・ケリッグ先生のルクセンブルク、もちろん国の状況というのは日本とはかなり違いますが、ルクセンブルクが何かをやるときに、EUとの関係をもちながらいろんなことを推進されていると思います。そういった関係の中で、どのように大学として考え、どのような方法で動かれているのかを伺いたいと思います。

ケニッグ:複雑な多層型のガバナンスが存在します。EUの規則についても、国の法律として作成し、それが直接適用されることになります。また同時に私たち、大学においても、ユニークな強みというのもありますし、ユニークな位置付け、弱みもあります。EUの中の小さい国であると、隣国が何をしているかもわかっている。より大きな企業のサービス、建設サービスなど、フランス、ベルギー、ドイツなどのさまざまな国のサービスがありますが、私たちはさまざまな規則や規範を、この4カ国に向けて独自の規範を作っている。で、4つの言語が共通言語としてルクセンブルクでは使われています。ですから、隣国に比べて、自分の強みは何かということを意識します。たとえばドイツにおいて非常に規制、規則が強いということで、私たちの強みは何かということです。また、EUで当然大きな影響力をもつ国の政治家は自らの役割をブローカーであって、私たち大学は一つの避難所であって、多くの文化を学び、そして、国境を越えた協力というのがどういった意味をもちうるのかということや、その協力をいかに成功裏に導くかということを学べる場所と思います。

北大はやはり特別な役割を日本で果たすチャンスがあると思います。特に生島副市長のお話を聞いておりまして、若い人を呼び込むような再生の必要性があるのではないでしょうか、ルクセンブルクで再生が必要だったのと同じように。たとえばベルバルのキャンパスについては、最初にシナリオ分析から始めます。そのように大学と都市のパートナーシップをこれからつくるのかと考えるときに、たしかに正式な、あるいは非形式的な制度がいるかもしれません。柏の葉 (UDCK)と同じような形を作った委員会やステークホルダーを指名して、そして長期にわたって協力するモデルもあると思います。

ブリティッシュコロンビア大学 (UBC)は違うアプローチを選びました。形式的な制度ではなくて、対話をやろうと。みんながやりたいと思う人を誘って、たとえば各産業のパートナーになってもらおうということで、流動的なプロセスの中で、その参加者を明らかにし、プロジェクトベースで資金調達もしたということで非常に柔軟性の高いアプローチをとっています。形式的な制度がうまくいく場合もあれば、もっと柔軟なアプローチがうまくいく場合もあります。北大の場合、どちらが適当かわかりませんが、違いがあるということです。

制度を考える以前に、私にとってやはり重要だなと思うのは、やはり共通のビジョンを掲げるということでした。それによって共通の目標ができあがる。ここには参画型のプロセスが必要です。できる限りオープンなプロセスが必要だと思います。UBCでは、選んだ手法はシナリオ分析でした。シナリオ分析というのは非常にオープンなプロセスで、それを広告して、さまざまな視点を呼び入れ、各業界、あるいは専門家からの意見を吸い上げることができる非常にパワフルなツールです。グローバルおよびローカルな知識を集積して、非常に多様な、たとえば3つの未来の像を描くことができる非常にいいツールだと思います。優先順位や不確実性がどこにあるのかということを明らかにすることもできますし、これによって大きな知の共有ができる。その知の共有がなくて出発すると必ず言葉が違う、解釈が違うという問題があとから出てきてしまいます。したがって、私はこれは非常にパワフルなツールだと思います。どんな文脈でも使えます。ステークホルダー、その地域の人たちが、技術的に、あるいは地元環境の観点から、何が重要な情報かということを明らかにすることができます。たとえば不均衡の問題があるとかを明らかにした上で、つまり不確実性と脅威というベースから始まって将来のオプション、札幌をもっと魅力的にするためにはどんなイメージを打ち出したらいいのかと考える上で非常に、その将来を見た、柔軟性の高いアプローチだと思います。新しいイメージを、若い人にウケるイメージをつくる上で非常に有効だと思います。

小澤:ありがとうございます。やはりドイツ、フランスという大国にすぐ接し、ベルギーも強い国ですので、そういうルクセンブルクだからこそ、早急に取り組まなきゃいけないというコメントだったと思います。植田先生は、今回京都からいらしています。同じ国立大学ですが、京都と京都大学の関係でどういう取り組みを考えられているか、何かそういった動きはありますか。

植田:京都大学が何を考えているかについて、貢任をもって言えることがあるわけではないんですが、ちょっとケニッグ先生がプレゼンの中で言われたことも含めて少しお話しさせていただきたいと思います。私が印象に残っていることは、じつはヨーロッパに調査に行きました場合にも感じましたが、大学の先生が地域の問題に取り組んで説明者になっている場合もけっこうあります。たいへんおもしろいとじつは思っていて、日本ではないなと。今日お話を聞いていますと、やっぱり地域のソリューションをつくっていくような、そういうサステイナビリティ・サイエンスも、やはり現在の学問のもっている、細分化傾向のもっている実践的解決力の弱さで、そういうものに対して、要するに学際的研究プログラムという形で、もういっぺん総合的な解決力みたいなものを大学が取り戻すというか、それを地域社会と取り組む中で培うというか、そういうようなニュアンスもあるなと私は感じました。

それからもう一点よく似たことのように思いましたが、ソーシャル・イノベーションという言葉を使われました。日本はイノベーションと言うと技術革新みたいに思いがちですが、そうではなくて、地域社会をつくりかえるようなことに大学がかかわっていく話と思います。これは大学と地域のかかわりをサステイナブルキャンパスという取り組みとして進めていく上で大事なヒントになると思います。そこで、京都大学は何する気があるのかですが、これは総長の受け売りでそれ以上のものではありませんけれども、京都はご存知の通りで、日本の都市の中では人口比率で言うと、おそらく大学はもっとも多くかつ学生比率も多い。それから、いろんな関西、近畿の大学の先生も京都に住んでいらっしゃるということなので、京都大学もイニシアチブをとって、京都をまるごとキャンパスにするというような、学生をもう少し街で主役にすることは考えていいのではと思います。具体的に何をするかは、たくさん考えていかなくてはいけなくて、しかもいろんな内容もありますので、大学らしく研究というものにしたほうがいい。京都の大学がみんなで協力して、市とか府とかも協力して、あるいは、京都の事業者も一緒になって大きな研究をする。そして、京都がもっとも発信できる研究。うまくいけば議定書の街なので、それについて考えるというのもありうる話だと思います。とにかく京都から発信があると、やはりそういうのがあるということが、学生が行ってみようとかいうことにつながる、そういう関係がうまくつくれていけばいいんじゃないかと、思っています。

小澤:総合的な解決力を大学が回復するというのは非常に大事な話だと思います。これから、キャンパスをどういうふうに使うかとか、我々大学がどうしていけるか、北大がどうしていけるかというお話をこれからフリーディスカッション的にしていきたいと思います。一つご紹介だけさせていただきたいのですが、会場のみなさまのバッグの中に、一つ冊子がはいっています。これは「サマースクール2014」として、アジアを中心に、ヨーロッパの学生も参加しましたが、トリノ工科大学の力を借りて、7月にサマースクールを開催したものです。そこで北大の北キャンパスをどういうふうにしていこうかということをまとめました。参考に見ていただければと思います。

小篠:じつは札幌市にもかなり協力をしていただいています。ここから北キャンパスと呼んでいるんですけれども、元々は農場だった。そこのところに新しい研究施設がどんどん建とうとしているわけですけれども、と言いながら、まだグリーンスペースがたくさんあって、そういう意味ではまだ開発の余地が残っている、と言いつつ、この周辺は完全に市街化されていて、住居地域、主に住居が多く建つようなスペースになっている。ここに見えないある種のボーダーが存在しちゃっているわけですね。大学のキャンパスと市街地というのは非常にアイソレートされている状態にあると言っても過言ではない、それをどういうふうに交わる状況をつくっていくか。さらに近い将来に合わせながら大学がどこまで貢献できるのか、っていうようなことも含めて考えてみましょう、というようなことを学生たちと1週間取り組んだのがこの報告書になっているということになります。

小澤:日本に来るのが初めての学生もいました。ブレーンストーミング的にいろんなアイデアを出して、それをネタにディスカッションしたということなんですけれども。おそらくこういったことの積み重ねが新しい展開を開くのかなと思います。あくまでもこれは参考ということでご覧いただけたらと思います。それでは、北大の具体的な提言というか、アイデアとしてどういうことができるかについて、何かご発言いただける先生がいらっしゃいましたら。では、吉見先生お願いいたします。

吉見:せっかく北キャンパスの話が出ましたので。多くの方がご存知のように、第二農場という北のほうはですね、緑が残っていて、羊などの動物を飼っているところだったのですが、そこはこういう形でいろいろな再開発的に使ってよいスペースに、プランとしてなっていると聞いています。一方で、そこに今建っているのは理系の施設が多いですね。そして、企業とのコラボレーションができる場所があって、多くの企業がスペースをもって、ここで研究などをされているのですが、そういう方向で動いている場所という認識です。裏を返すと、私たちのところとはあまり関係のない施設に残念ながらなってしまっていて、文科系の先生方も学生もほとんど行ったことがないと思いますね。敷居という意味では、市民以上に学内でもほとんど敷居の高い場所になっていますね。私、創成研究機構の建物に一度行ったことがありますが、やはり中を歩いていると、明らかによそ者なんですね。ジロジロ見られて、「おまえ、どっから来たんだ?知らない顔だな」っていうふうに見られて、いづらくてすぐ出てきちゃうという感じになっているんです、残念ながら。本当はそうではなくて、大学、企業はもちろんのこと、地方の自治体等々を含めてですね、いろんな人が出入りできるような、そういうエリアにここがなっていくと大学の中でもそれぞれいろんな部局で垣根と言うか、縦割りと言うのか、そういうものがあるので、そういうものを文系・理系関係なく交流できるような場所にしていくべきなのではないかと思っています。そういう意味では、いろいろな機械とか設備だけがここに集約するのではなくて、先ほど言いましたような、まさに情報が集約できるような場所があるといいなあと思うところであります。

その研究というときにもう一つ、先ほど生島副市長からの話がありましたが若者が残るような産業と言いますか、そういうものも札幌に生み出せないか。これはたしかに課題だと思います。ここで先ほど一つのキーワードになったグローバルとローカルの部分の難しさがちょっと顔を見せるのかと北大にいると思いますね。というのも、北海道大学というのは札幌に場所があって、まさにローカルに役に立たなきゃいけない大学なのはわかっているんですけれども、一方で我々研究者は常に世界的な研究成果を求められます。鈴木先生がノーベル賞をとられた後に、私は「次は経済学部だね」とか「いつ経済学部からノーベル経済学賞が出るんだ?」というふうに聞かれました。それはちょっと、いくらなんでも大変でしょうと言いたいところなんですけれども、ノーベル賞とは言わないまでも、そういう世界レベルでの研究が求められるところもあって、たとえば企業を対象に研究するとしてもですね、その世界レベルに通じるような企業を対象にしないとなかなか経済学においての研究はできません。おそらく理科系の先生方がいろいろな研究成果を出した場合も、それはたとえば札幌の企業に役に立つ研究ということよりも、世界の人たちに役に立つ研究というところ、むしろ求められているというところが、大学の性格としてやはりあります。なので、たとえば札幌にある企業の方が、自分たちが何か新しい製品を開発するために、北海道大学の知識を得たいとして来られても、極端に言えばミスマッチが起こる可能性があるわけです。むしろ、今までもお話があったように、大学がですね、世界的なグローバルな研究成果を北海道大学側に求めていく。おそらく京都大学もそうだと思います。そういう中で、そこで生まれてくる研究成果が結果として札幌なりなんなりに実を落としてくれるというイメージがいいなあと思いますね。

新渡戸稲造はしばしば北海道大学が生んだ叡智として引き合いに出されますけれども、多分、新渡戸稲造はほとんど札幌に何もしなかったんじゃないでしょうか。ただ今、彼がいたということ、北海道大学がそういう人材を生み出したということが、札幌、あるいは北海道にある種の果実を今でも与えてくれているんじゃないかと思います。そういう意味では直接的にいきなりですね、北大とどこかの企業が結びついて、札幌の企業が世界企業になりましたという絵は、もしかしたら描きにくいかもしれないですね。しかしそうではなくて、北海道大学がそういうグローバルな研究をしていて、グローバルな人材を育てることが、札幌の、北海道の、その地域のために役に立つという協働のあり方があるといいなと思うんです。そういう意味では、キャンパスにまだ余裕があって、人が集まれる、知識を集められる余地があるというのは、北大にとっても地域にとってもものすごく価値のある、他のところにはほとんどない財産だと思いますね。ですからまずは、この北キャンパスを、企業からオファーがあってお金が落ちるたびごとにボコボコボコって建てていくのはやめてですね、まさにデザインを考えて、文系・理系を含めて、そして地域を含めて、知の集積ができるようなプランをここに立てるというのが大事だと思います。

もう一つは、東京大学等の、柏の葉キャンパスも含めて、まったく新しいキャンパスをどこかにつくるということですね。田舎にキャンパスをいきなりつくることには否定的な話をしましたが、研究という側面だけを考えてとるとですね、特に北海道大学のような研究を中心にやらなきゃいけない大学の場合にはじつはありうるかもしれないと思っています。新しいキャンパスをどこかに大きくとって、研究を中心にして集約してやる。そのための場所は北海道にたくさんあるので、これはおそらく札幌ではないと思いますので、生島副市長からは「とんでもないことを言うな」と言われるかもしれませんが。そういう可能性はもしかしたらあるかもしれない。ただこれもですね、どこでもいいわけじゃないと思います。今日のお話にあったように、小篠先生からお話があったポートランド州立大学もそうですし、アリアネ先生からあったルクセンブルクもそうですけれど、生島副市長もちょっと言及されましたが、そういうときにはですね、マスタープランを位置付けて、かつ、公共交通ですね、これも位置付けられていますね。ルクセンブルク大学の新しいキャンパスも公共交通が非常に有利性があるということがお話にありました。ポートランド州立大学はそういうユニバーシティゾーンをつくるというときに、そこにライトレールを敷くという決断をして、そこが路面電車の終点に変身をしました。そういう形で公共交通を整備するのも考えています。どこか土地が空いているからといってキャンパスをつくって、鉄道の駅もないという状況では、多分うまくいきません。ですから、そういう空き地利用で大学を使うということではなくて、アクセスまで含めてトータルで考えなきゃいけないので、そこは北海道大学も北海道も考えなきゃいけないことだと思います。これだけ大きなキャンパスをもっていて、まだ北キャンパスもありますから、まずはこの北キャンパスをどういう使い方ができるかなと考えるほうが現実的だと思いますね。

小澤:ありがとうございます。非常に大胆なご提案をいただきました。このご意見を受けて、あるいは別のご提案等ございましたら、おうかがいしたいんですけれども、いかがでしょうか。

ケニッグ:はい、ありがとうございます。私のアイデアはそれほど大胆ではないかもしれません。新しいキャンパスをつくるほど大胆なものではないかもしれませんが、より小さな提案として、私は外の人間ですから、何が実現可能で、何がそうでないかわからないので、自由に話させていただきます。シナリオの解析を使うという話を先ほどしました。知識をグローバルなオプションとさまざまな制約、不確実性をローカルなものと照らし合わせると。環境、持続可能性、社会的な要因、すべて合わせると。シナリオ解析以外にも、植田先生もおっしゃったように、フランスにおきましてはかなりの大学の数が増えております。多くの大学で人のための大学というものを制度としてあげています。基本的にこれはどういうことかと言いますと、大学のさまざまな部署がシンジケートという形で政治グループと協力をしながら、こういったグループが彼らに対してさまざまな題材を提供し、協議ができるようにします。講義ができるようにするということです。そうして、強いつながりができ、そしてまた、非常に影響力のある形で、市民の力というものをさらに強化できます。大学は質問に答えて、ニーズに対応できるような講義をします。人間関係の構築におきましては、小さな一歩かと思います。ただやはり組織付けは難しいと思うんですね。最初はたいへんだと思います。専門家が視点を変えて、使う言葉も変えていかなければならない。双方向だと思うんですね。そして、大学の人たちは一般の人たちの感受性に近いものになれるわけですし、逆もまたしかりだと思います。それが一つの例です。それとは別にもう一つのアプローチで考えられるものとして、先ほどの川の再生プロジェクトは本当にすばらしい事例だと思います。大学のキャンパスが社会にサービスを提供したことで自然に近い関係にしていく、関係を変えていくということですばらしい事例だったと思います。この地域の多様性というものをうまく使いながら、この都市の真ん中の川の再生をはかったのですから。

多様化ということを考えますと、やはりシチズンズ・サイエンス・プロジェクトも非常に強力だと思います。市民の方々がモニタリングを全部するというのは難しいと思いますが、学校と一緒に協力してやりたいということであれば、生物学の先生が、特定の種を選んで、6歳から8歳児などもかかわれるものを組めると思うんです。そしてまた、自然との関係を理解することができると思うんですね。ですから非常にシンプルなデータの収集になるかもしれませんけれども、そういったこともできるのではないかと思います。子供たちを巻き込んで両親たちも関心をもってくれるかもしれませんね。まあ一つのアイデアですけれども、関係を構築したければ、中と外のもの、市との関係構築ということで申し上げました。

小澤:非常に大事な点をご指摘いただいたと思います。やはり我々はどうしても、大学、新しいキャンパスをつくるというと、どちらかと言うと上から目線でやりがちです。私がドキッとしましたのは、科学者は人々に対してセンシティブでなくてはいけないというお話がありましたが。この言葉につきるんじゃないかと思います。そうでないかぎり、次のステップに進んでいくことは難しいですし、これからのグローバル化の中で、世界の中でそうしていかなくてはいけないという、強いメッセージとしてお受けしました。

小篠:今のケニッグ先生の話もすごく重要な話だと思います。それで、植田先生の話の中で、成熟社会を迎えた日本の中でサステイナブルキャンパスというものが非常に重要な視点をもつだろうというお話をされて、そこのところが先ほどの吉見先生のいわゆるグローバルという話とからめられる話かなと思います。成熟社会に直面している日本の社会というのは、ある種のトップランナーになっている可能性があるわけで、直面している課題はますます大きくなっています。そのソリューションを見つけていくことによって、それをグローバルに展開できる可能性はあるんじゃないかと受けとめられるんですよね。そういうことが、たとえば北キャンパスにおいて研究され、あるいは実践される、まさにおっしゃられたようなアーバンデザインセンターなのかもしれませんけれども、そういったものがつくられていくことで、グローカルな状況がつくることができるのだと思います。そのときにやはり重要だともう一つ思うのは、何か施設をつくるというだけではだめだということです。その中身の活動をどうデザインするのかが求められていて、今まで大学がともすると施設先行でものをつくってきて、もちろんその中に研究室があって、実験室があってというのは、それは当然なんですけれども、やはりそこの中身を本当にデザインし尽くして、アウトプットも予測しながら何かものをつくってきたのかと言うと、そう言い切れないところがあります。これからの施設計画や大学キャンパスのデザインを考えていったときに、そのソフトも含めて、運営も含めて、デザインをしていくというようなことがないと、対応ができなくなっていくと思います。

森:キャンパスを考えるときに、今後行いたい機能をそこで果たせるかどうかというのは検討すべきことであると思っています。この数週間の間、大学のいろんな新しい建物を視察してきたんですけれども、その中で一番記憶に残っているのは大学附属病院です。高齢化社会を迎えてより難しい治療とか高度治療が必要になってくる。そうするとすべての医療のパターンを附属病院の中で自前でもつのはほぼ難しくなり、すべてをもつ必要もない。ということで、より地域に近い一般的な医療に関しては、協定を結んだ20床ぐらいの医療施設で研修を行う。すると限られたスペースの中では高度医療に特化した活動が展開できます。より一般に近い医療に関しては、協定を結んだ診療機関で活動ができてしまう。それぐらいメリハリをつけてセーブしていこうという計画を名古屋のある大学でお聞きしました。大学病院というのが大学の中で一番多様な人が働き、独法化以降も急速な勢いでスタッフ数が増えていますので、人のマネジメント、資金のマネジメント、とても難しい仕事をされているんですが、その方たちは、考えに考えたところとして、高度に徹するためには、一般のところは提携を結んだ地域の医療機関でやらせてもらうと、明言をされたことが非常に記憶に残っているので、付け加えさせていただきます。

小澤:ありがとうございます。このあたりで会場からご質問があれば、お受けしたいと思います。いかがでしょうか。もし何かございましたら。

質問者1:千葉大学の上野です。今回のタイトルに「大学にとっての地域とは」とありますけれども、地域と言ったときに、それぞれの方々の範囲というのですかね、ちょっと違うような気がしています。私もそうだし、会場の方もそうじゃないかと思うんですけれども、キャンパスという写真を見ながら言うと、札幌市のここの場所で、大学の役割、市の役割、がどう連携するかという話になってくると思うんですけれども、北海道という地域の中で考えたときに、たとえば札幌に北海道の他の場所から人口が集中して他が疲弊するという問題も起きています。そういったことを大学としてどう考えようとしているのか、あるいは北海道の一番大きな都市として、北海道全体というか他の自治体に対しての指導的な役割についてお聞かせいただければなと思います。

生島:北海道というこの土地の開拓の歴史を考えると、札幌の役割はまさしく北海道全体のためにあるということなんですね。それでここ数年来、札幌はですね、「北海道の繁栄なくして札幌の繁栄なし」ということを市長が明言して『札幌☆取扱説明書』という冊子を作って、道内の市町村に配布しました。先ほど吉見先生が「札幌市外に北大キャンパスをつくることを言ったら、生島が怒るんじゃないか」という話をしましたが、私はまったく怒りません。まさしくそれが北海道全体のためになれば、それが必ず札幌のためになると考えていますし、北海道大学はまさしく北海道大学ですから、札幌で独り占めしようなんてことはまったく考えていません。ということを前提にしてお話しいただければと思います。

吉見:大学を代表できる立場ではないんですけれども、これは大学なり、それぞれのみなさんでお考えが違いますのでね、お話しすることについては「それは違うよ」と言われることは重々承知の上でお話ししますが、どうしても北海道の場合は、北海道と言ったときに北海道の地図がすぐ思い浮かぶんですね。たとえば今の人口集中現象にしましても、北海道という島で考えてしまう傾向があります。我々がいつの間にか北海道という島にですね、意識を固めてしまっているんですね。こういう中ではもっと私はエリア、地域、リージョナルというものを広げて考えるべきだと思っています。今日はケニッグ先生からはルクセンブルクというたいへん小さな国が必然的にまわりの国のことを考えながらやっていかなきゃならないというお話もありましたけれども、じつは北海道というのは外国に一番地理的に近いところでもあります。ロシアがすぐそこにあります。あるいは極東地域ということを考えますと中国もそうですし、あるいはもっとエリアを広げれば、北東北くらいからですね、経済という観点からいけば、北海道経済は十分入ります。新幹線が開通すれば、交通という点からも視野に入ってきます。そういうふうにターゲットを見て考えていかなきゃならないのがこれからの北海道大学の使命であり、また学生という観点からしても、世界的にいろんな留学生を集めるように努力もしていますが、特にそういう意味でも、地域的な面で言えば、本来はロシア、極東地域といったところをターゲットにおきながら、そして多くの人を集めていって、多くの人が集まるということが結果として札幌にも北海道全域にも利益をもたらすということになるのではないかと思います。そういう意味では、むしろ北海道民が北海道のエリアをもう少し広げて考える必要があるんじゃないかなというふうに私は考えています。

小澤:ありがとうございます。もう一つだけ質間をお願いします。

質問者2:私、福島工専の樋口と申します。さっき発言のあった中村校長の下で福島の復興人材育成事業ということで、まさに実行部隊の一員としてやっております。ただ残念ながら、赴任して1年半になるんですが、地域のニーズというものに関して必ずしもマッチングがかみ合わない、我々がもっているポテンシャルと地域のニーズ、我々は何をやったら使ってもらえるんだろうかということに今苦慮しています。特に植田先生には今、福島がチャレンジをしている、我々がどう成果を出すのか注目されているという非常に厳しい言葉をいただきましたので、何かヒントになればなと思っておうかがいしたいと思います。よろしくお願いいたします。

植田:ちょっといいヒントのようなものをお話しできるかどうか自信がまったくありません。じつは私自身がかなりの頻度で行っております。なんとかしたい、なんとかかかわって復興の力になりたいと勝手に思っているわけですが、なかなかそういう場をつくるのが難しいですね、率直に言えば。おっしゃったようにニーズがどこにあるのかというのは大事な話だと思うんですけれども、ニーズを語り合う場みたいなもの、そういうものがないと動かないですよね。だから大学と地域といった場合に、大学のほうが考える課題みたいなものが一方であると思うんですけれども、それと地域のニーズとうまくマッチするかどうか、これはなかなかわからないところがあると思います。

希望的なことを申し上げると、先ほど吉見先生のお話がありましたように、北海道大学の役割というのは、グローバルに認められる成果みたいなものを出すこと。これも一つの役割、当然の役割だと思うんですけれども、何かそのグローバルな成果として認められるような課題を地域で見つけられるか、ということが一つあるかなというふうに思います。それで、私が個人的に思うことは、ケニッグ先生もわりとよく使われたんですけれども、成熟社会の課題とおっしゃられましたが、将来は不確実だと、非常に見えにくい。そういう中で何をしていけばいいのかよくわからない、というようなところがあって、それをどういうふうにして共通の取り組みにするかですね。そういうプロセスをどうやってつくるか、それこそコミュニティーや地域と一緒になってそれをつくり上げていくような、取り組みのための課題設定ができるか、アジェンダ設定ができるようにしていくこと自身が取り組みなんじゃないか、というふうに思います。これは今までやったことがないような研究スタイルのようにも、私はじつは思っていまして、論文がほとんど出ないんじゃないでしょうかね。それを認めてくださるところがどこかにあるのか。ケニッグ先生が一生懸命サステイナビリティ・サイエンスというふうにおっしゃっているのは、そういう学術のあり方そのものがどこかで承認してもらえるような場をつくっておかないと、特に若い人に「やれ」って言えないんじゃないかと思います。本当のチャレンジが求められているんじゃないかな、というようなことを思っています。福島に行っていろいろしても、何か反応がなかなか返ってこない。多分そういう感じをおもちになっていると思うんですが、それは、本当に課題がないんじゃないんだと思うんです。それをすくい上げるプロセスみたいなものが十分つくられていないという気がします。大学と地域の関係というようなことを、形だけのWin-Winということじゃなくて、本当の意味で、ソーシャル・イノベーションというのは、本当はそういう意味合いが込められていると思うんです。そういうものを生み出すような取り組み方をつくる、そういう課題があるんじゃないかと思ったしだいです。聞かれたご質問には十分答えられなかったと思うんですけれども、私なりの感想はそういうことです。

小澤:ありがとうございました。非常に本質的なポイントを突いていただいたんではないかと思います。最後に出席された先生方から一言ずつお言葉をいただけたらと思います。吉見先生からよろしいでしょうか。

吉見:企業との関係でいきますと、北海道大学と札幌の場合はいろいろ難しい面もあります。京都もそうかなと思うんですけれども、少なくとも東京や大阪みたいにたくさん会社があるわけじゃないですね。そこに立地しているグローバルな大学というのがあります。ただ京都の場合、まだ任天堂とかワコールとか京セラとか、有名な会社がありますけれども、札幌っていうのは昔から伝統的に有名になるとすぐ出て行ってしまうという傾向がある街で、サッポロビールも本社を移しましたし、最近ではニトリさんもどこかに出て行きましたし、そういう土地柄なのかもしれません。ただ、そういう意味では、地元の問題発見をして、そしてその問題発見がその産業として、地域の特に行政の連携の中で結びついて、地元にそういう企業が残っていただいて、大きく育ってもらえるというようなことも大学としての協働という中での目的とすべきところかなと思っています。

生島:最後ですから夢を語るべきなんでしょうけれども、きわめてセコい話をしたいと思うんですけれども。今私ども、札幌市立大学、札幌市でもっている大学は文科省のセンター・オブ・コミュニティーの指定を受けて、地域のまちづくりのような活動をしています。何を言いたいかと言いますとですね、そこに国からお金がきてようやく進んでいるということなんですね。したがって、先ほどの北キャンパスのような話ですとか、私も大学と行政と、本当は市民もたくさん巻き込んだ、そういう動きができればいいなと思うんですけれども、そこのお金ってどこから出てくるのかというのが現実の問題としては一番大きな問題になるのではないかと思います。先ほど小篠先生からさまざまなご紹介があったときに、資金がうまいこと流れる仕組みがあるんだと思いましたけれども、そういうのがなかなか日本では想定しづらいという大きな課題があるのかなと思います。

植田:やっぱりサステイナブルなので、かなり長い見通しをもった取り組みをしてほしいと今思っているものであります。しかも、答えのない問題をやったらどうかと。かつ地域も研究者になり、大学と地域が一緒に研究する。つまり、そのデータ自身を地域がとる。だから結果が出てくるのがだいぶん時間がかかる。そういう問題をやってみたらどうかな。東京の忙しい人は放っておいて、ある地域と一緒に大学が研究する。ひょっとしたら30年後ぐらいにとてもすばらしい研究成果が出る、というふうになる可能性は僕はあると思うんです。今の高齢化社会とかで起こっている問題は、すでに起こった問題じゃないから、何が起こるかわからないし、どうしていったらいいかもよくわからない。どうしていったらいいかというときに、やってみないとわからないことがあると思います。やってみたらどうでしょうか、地域と業界と一緒になって。それは地域の人自身が、自分が一種の被験者になると了解しないとできないですね。先ほど医療の話があったんですが、あの分野はそういうことが多い。実際に少し研究も出だしている。それぐらいのことをやらないと、本当の意味で、私の用語で言えば、成熟した社会の課題を越える事例はつくれないと思います。

ケニッグ:私の最後の言葉は、本当にここに参加できて光栄だったということです。この国際シンポジウムに参加できてうれしいと思います。一般的な大学の役割という議論とこの北海道大学の自らの将来の具体的な議論を結びつけた、そんな大学は初めて見ました。非常にエキサイティングですし、生島副市長さんがご参加されていることも非常に好印象を受けました。ある意味で私たちはずいぶん先んじて、市と大学の関係を築いているという印象です。もう一つ、資金はどこからくるんだという先ほどの懸念の声がありましたけれども、私の見方なんですが、ブリティッシュコロンビア大学でまず関係づくりをしようということで、企業と同じように共通の問題を見いだして、そして、市民に動機づけをして、そして時間を割いてもらいました。これはどうしても必要なことで、今ここで起こっていることです。共通の問題について深い理解をし、そうやって初めて共通のプロジェクトができあがるわけです。そこで初めて時間、あるいは金銭的な投資が民間企業からも出てくると思います。段階を踏まないといけないと思います。まだ内容がわからないのにプロジェクトに資金を出せというのは難しいですから。また、シナリオ分析、これが重要かと思います。プロジェクトのシナリオ分析をする、ルクセンブルクの教育の未来についてシナリオ分析も非常に良かったんです。積極的な意見をもっている人たちは、実際に参加していただいて非常にいい結果が出ています。この経験に感謝します。この場に参加できて、非常に光栄です。

森:今日のシンポジウムのタイトルの上に「大学改革シンポジウム」と書いてありまして、やはり大学改革という目で見られるんだなと、今回よく感じたわけです。大学は教育、研究、社会貢献ということをミッションとしておりますけれども、それぞれ、教育の中でも、研究の中でも、社会貞献の中でも、社会的な課題を地域と一緒に考えることが仕事になっていて、その仕事をしようと思うと、これまで大学とかかわったことがなかった人たちと、言葉を丁寧に選びながら、覚悟をもって仕事をしていかないといけないと考えております。そういったことをすでに実践されているルクセンブルク大学の事例もお聞きでき、とても参考になりました。ありがとうございました。

小篠:サステイナブルキャンパスをめざしていくのは北大としてはずっと変わらない方針だと思うんですけれども、そのサステイナブルキャンパスを実現するためのマスタープランをつくっていかないといけないと思うんですね。どういうふうに合意形成をしていくのか、何を目標として選択していくのかということに対してさまざまなステークホルダーとのディスカッションが必要だろうし、あるいは先ほどからずっとケニッグ先生が言われているシナリオ分析のお話が出てますけれども、どういうシナリオを組むとどういう結果を想定できるのか、それはどれくらいのメリットがありそうなのか、あるいはそれは実現可能なのかどうか、という話は、今までのキャンパスマスタープランの計画の中にあまり盛り込まれていなかったと思うんですね。どういう計画をつくるにしても、なかなかそういう計画の方法論はなかった気がしますけれども、これからそういうやり方、方法論というのを今日のディスカッションを参考にしながらつくりこんでいく必要があると感じたところです。

小澤:この取り組みはまだ始まったばかりということで、まだまだこれからやることが多々ございます。貴重なご意見をいただきましたので、これを糧に次のステップヘ進んでいくということになるかと思います。お集まりいただきましたみなさま、どうもありがとうございました。