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サステイナブルキャンパス国際シンポジウム2014 基調講演より アリアネ・ケニッグ ルクセンブルク大学 教授

2014年11月25日に開催した国際シンポジウムの基調講演より

サステイナビリティ・サイエンス2.0:多様な社会的学習の場

アリアネ・ケニッグ ルクセンブルク大学教授

このような機会を与えてくださりありがとうございます。

社会に対し、大学にはどういった役割があるのかを考えてみたいと思います。社会と大学はどうかかわり合うべきなのか。最初にサステイナビリティの課題は何であるか、社会的な学習とはどういった役割を担っているのかを見ていきたいと思います。社会は大学に何を求めているのか、何が必要なのかという視点も見ていきたいと思っています。小篠先生の最初のご指摘に対して検討していきたいと思っています。私達は社会と環境のかかわり方を変えようとしています。新しい知識を創造し、また、環境とのかかわりを変える上で社会の役割は何なのか、そこに住む市民の役割は何なのか、ということを考えていかなければなりません。すべての役割は一人一人にあるということを忘れてはなりません。でなければ、環境に対するこの関係性の変化を成しとげることはできません。

まず21世紀を見てみますと、私どもは非常に複雑な問題を抱えております。文明がどう環境とかかわればいいのか大きな課題を抱えております。こういった課題に遭遇した場合、コモン・プール・リソース注)を利用していく中で3つの異なった社会の構成要素があります。1つ目は、政府による法規制です。これは階層的であり、トップダウンのものです。特定の組織というものがあり、すでに問題は規定されています。もう一つソーシャルコーディネーションのメカニズムとしてあげることができるのが、市場原理です。なんとかして利益を最大限にしようという動きも同時にあるわけです。ですから、企業、そして消費者が選択をしながら進むわけですが、これも既に定義付けされた問題に対応する形をとっています。

そして3つ目です。ネオクラシックの経済学を見てみますと、このようにコモン・プール・リソースの状況におきまして、エレナ・オーストロム、経済学者でありますけれども、まさにコミュニティに目を向けております。どうやってコモン・プール・リソースとコミュニティをうまく融合できるのか、漁業ですとか農業において、肥沃でない土地、鉱山などでどうやって資源を管理し、コミュニティを維持しているのかを見ています。ということで、彼女は3つ目の要素をあげています。このガバナンスの3つのメカニズムとしてソーシャル・ラーニング、社会的学習と呼んでいるものがあります。これは強制力をもたないものです。これはみんなが均等、平等という概念のもとにあるわけです。コモン・プール・リソースにかかわるすべてのステークホルダーがアクターであるということです。問題を皆で定義し、解決策をすべてのステークホルダーで見いだすというものでこれは直感的で反復的な学習プロセスということになるわけです。生涯教育ともいえるかと思います。そういうことでさまざまな解決策というものは、社会的なプロセスの中で生まれて、環境に常に適応し、新しい知識に適応するというものです。ですから、常に学習をし続けることが必要です。エレナ・オーストロムの研究はソーシャル・ラーニングのプロセスをこのようにコモン・プール・リソースの管理ということでまとめています。データ収集をさまざまなストック、フロー、そしてこういった限られた資源の使用について見ていき、その変化もとらえるというものです。同時に評価の際は不確定要素、不確実性もあるということも理解しておかなければなりません。行動の変化ということも同時に評価されなければなりません。またそれぞれの個人の価値観、グループの価値観、どういったステークホルダーがいるのかを同時に理解する必要があります。プラットフォームがまず必要になってくるわけです。そしてまた、物理的、技術的、社会的なインフラも必要となってきます。学術界において知識の分断化ということが過去にはあったかと思います。そうなってしまいますと複雑なシステムに対応しきれなくなってしまいます。現実社会に即した運営や決断というものが十分にされていなかったのです。

サステイナビリティ・サイエンスというのは新しい概念です。2000年ぐらいに生まれたものです。地域、そしてまた社会、地球上のさまざまな問題に目を向けるということで生まれました。これは人と環境のかかわりを変化させることに目を向けたものです。5つの要素があります。プロセスのカギとなるのが、実践につながるさまざまな情報収集。そして、方法、理論の多様性、多様なステークホルダーの参加、それぞれの判断基準がその地域においてどういう意味をもっているのか、共同で評価をしていくということ、そして自己認識です。アメリカの実際主義という概念、ジョン・デューイが言っていたように、どうやって知識を概念化できるかということにもつながってくるわけです。例えば、建物のエネルギーの節約ということになりますと、データのモニタリングということで、定量的なデータが必要です。どれくらいのエネルギーを使っているのか。その情報が必要です。そして、なんらかの形で定性的な情報や研究と結びつける必要があります。なぜエネルギーが必要なのか、どういった役割を担っているのか、それに対して私どもがどういう価値観をもっているのか、についても理解する必要があります。温度21℃、風量0.07㎥/秒という数字を見て、これでエネルギーの節約になりますでしょうか。ですから、場合によっては快適性という概念を広げて交渉材料に使ったほうがいいかもしれません。ということで今まであった学術界の象牙の塔をより実践的な対応のために広げていくことが必要になってくると思います。専門家のかかわりだけではなく、それぞれのステークホルダーの協力が必要です。サステイナビリティ・サイエンスという概念におきまして、進捗というのは反復的なプロセスを繰り返し評価して、そして昨年、その前の年でやったことから学びながら進化していくというものであります。そしてまた批判的な弁証法に基づいた内省も必要になってきます。価値の多元主義というものも認められています。ですから建設的な批判も同時に必要になってくるわけです。

「シチズン・サイエンス」という概念があります。学術界では非常に多くのデータが必要です。渡り鳥を市民が観察し、研究のためのデータ収集に市民が頁献するというものであります。オックスフォードにおきましてはWEBサイトがありまして、こういったカメラを使ったものも載っています。ですから何百万もの写真がそこで得られます。個人が参加できるようになっています。温暖化に対し、市民が関わるのです。ネーチャー・ロケーター(生態系研究に必要なデータを市民等がそれぞれの地域で収集し、専門家を助ける仕組み)の分野におきましてネットワーキングのアプリケーションもたくさんあります。環境のモニタリングに一人一人が貢献できます。

ですから、サステイナビリティ・サイエンス2.0のもとでは、市民、自治体の方、NGOの方、大学の研究者、社会学者、エコロジスト、エンジニア等々、それぞれの専門性をもった人がかかわることになります。チームとしてかかわることで一緒にデータを集めるだけでなく、さまざまな課題を組み立てるわけです。ですからただ単に市民が手伝うのではなく共同作業になります。このようなプロジェクトは、森林管理の領域や、水質管理の領域で見られます。エコシステムとの関係、地域社会、そして経済圏、そういったものとの関係の変化も見られます。

大気汚染のモニタリングに関するEUのプロジェクトの事例を紹介いたします。モニタリングにかかわっている人たちがセンシング・プラットフォームという形で参加できるようになっています。さまざまなモニタリングを多様に行うことで新しい責任の必要性を政策決定者に対して示すことができる。新しい圧力が生まれる可能性もある。市民により近いところで決定しなくてはならないと考えるだろうと思います。こういったプロジェクト、ここで使われているのはセンシング・テクノロジーです。ですから大気汚染におきましては非常に安価で、安いセンサーもあります。エアボックスなども市場に出ておりますので、うまく組み合わせることによって、室内の状態を検出することができます。

次はサステイナビリティ・サイエンスの役割を見ていきたいと思います。この概念を念頭に置きながら、社会と大学の役割、どうかかわるのかを考えてみたいと思います。

サステイナビリティ・サイエンスにかかわっている大学の数、そして大学がその地域でどう存在すべきなのか、日々どういった人が何を必要としているかを課題として取り組んでいる大学はどんどん増えています。大学は非常に重要な役割を果たしております。植田先生もおっしゃっていたように研究と教育、両方の側面があり、そしてまた、社会とのかかわりということも必要になってくるのです。大学はネットワークを構築しています。サステイナビリティ・ユニバーシティー・ネットワーク、インターナショナル・サステイナビリティ・キャンパス・ネットワークというのがあります。そこで小篠先生、植田先生にもお会いしました。こういったネットワークは大事だと思います。そして大学のコミュニティは非常に理想的な知識共有の場を提供し、ステークホルダーが共に環境の質、QOL(生活の質)を高めるのに役立つと考えています。キャンパスそのものがリビング・ラボにもなりうるということで、社会、技術的なイノベーションを参加型の学習によって実践できると思います。

感銘を受けたのがブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー、カナダ)の事例です。過去12年間、建物の構築をしています。Centre for Interactive Research on Sustainability、CIRSをつくっています。これが社会との対話を実現する場となっております。リビング・ラボが実践されている場所であります。リサーチ・プログラムでは省エネですとか、建物の持続性に限らずコミュニティの活性化も目指しています。建物はエンジニアがつくるもの、システムをつくるわけですが、最終的にはできたものに対して実際に居住する人たちがかかわることで、新しい存在を創るわけです。ですからその建物とどうかかわるのか、どうやりとりするのか、今ラジエーターをつけるべきなのか、窓を開ける必要があるのか、ランプの明かりではなく日照をどう使うのか、そういった居住者の建物とのかかわりという部分が重要になってくるわけであります。ですから自分で決定ができないような状態でないわけです。

もう一つ建物の事例ですが、BCハイドロシアターというのがあります。この建物というのはまさに革新的なプロジェクトの場となっています。この大学が都市とどうかかわるかということで「Greenest City Conversations Project」(環境にやさしい都市の対話創出プロジェクト)と呼ばれるもので、これは一連のワークショップとなっています。バンクーバーの市民がかかわるものであります。コミュニティーのエネルギーを見る、そして温室ガスの排出状況を見るものであります。3つのゴールがあります。環境リーダーシップ、グリーンビルディング、グリーン交通を掲げておりました。

さて、ルクセンブルク大学でありますけれども、新しいキャンパスを国の南部に開発中です。7,000人の学生、研究者が3,000人の設計にする予定です。10億ユーロの予算で、ルクセンブルク南部、ここはじつは鉄鋼業が盛んでしたが、今は非常に斜陽化しておりますので、この工業跡地をキャンパスに変えようとしているわけであります。未来的な科学都市に変えようということでルクセンブルク政府との共同開発です。古典的なマスター計画になりますけれども、サステイナビリティを重視しています。すなわち都市部と調和させるということ、それからいつも自転車と足でどこにも行けるということ、公共交通機関が連結されているということ。新しい駅も造りました。30%が緑地であること。そして、持続可能な建築を促進するということです。大学と都市の透過性というのを最高にしようといたしました。また、博物館もショッピング場も組み込みました。スポーツやレジャー、そして住宅区というのも統合になっております。これは詳しくなりますけれども、ほとんどのビルはどうなるかと言いますと、せり出した構造であります。これは公共エリアと大学がこのように合体しているんです。これはミーティングをするところ。1階にもカフェもあります。そして、売店もあり、公共スペースになっているわけです。学生と市民が自由に交わることができる。そして、研究科の展示スペースがあります。これも、浸透性と私たちは呼んでおりますが、大学と都市の調和が進むということです。

ルクセンブルクは非常に小さな国でありまして、ドイツとフランスの国境地帯に大学があり、ベルギーとも接しています。16万人がじつは国境を越えて、ルクセンブルクに毎日出勤するのです。人口の流出は毎日あるわけですから、人口は毎日、倍になるんです。私たちは2016年に新キャンパスに引越しの予定でありますけれども、市民を新しい行動計画に参加させようとしております。どうやって参加させるのか。これが問題です。ブルーカラーの人々で、多くが、ポルトガルからの移民で、ルクセンブルク語も話しません。また未熟練工に属する人たちが多いわけです。そういう人たちを彼らと一緒に参加させて、共同設計とか知識を共同でつくっていくのです。そしてまた他地域への適用可能性も考えておかなければなりません。一歩一歩でしょうね。小さく生んで大きく育てる、ということです。最初の計画から進めていかなければなりません。

それには、ツールがあります。教育です。サステイナビリティ・サイエンスの教育です。私たちの大学独自のものです。学士であろうと修土であろうと博土であろうと参加ができるものを考えています。それと同時に色々な分野のプロも対象に考えております。私たちの目的は、できるだけ多様な学習のコミュニティをつくりたいんですね。そして、参加者に証書を与えます。目標といたしましては、市民と科学者と専門家をサステイナビリティ・サイエンスの中に参加させることです。ピアグループ学習(チーム学習の単位)は私たち自身と環境を変える助けになります。課題解決型の学習なのです。2つのコアのコースがあり、これは実践的なプロジェクトです。多くの講義は一般市民も受けられるようにしております。じつは1/4の講座は誰でも来ていいのです。人気のあるのは成長の講座です。経済成長にはどのような意味があるのかという講座です。私たちの課題に対し、どの技術が合うのか。どうやって専門的な知識を取り入れるのか、そしてグローバルとローカルの相互依存から生じる複雑な問題をどう解決するのか、物質と社会のつながりは、対立はないのか。これも、持続可能性を考えることでもたらされる能力です。変化を起こすべき点を識別できたら、それを実行するのです。ピアグループのプロジェクト、いろいろあるんですけれども、関心がありますのが、オーナーシップを変えるということを考えております。社会のオーナーシップ、所有の概念を変えるのです。再生可能エネルギーでは、ピアグループの1つでこのセメスターではエネルギーの共同組合を考えております。ビジネスモデルを立てようとしております。そのためには市民に投資をしてもらうということ。再生可能エネルギーが採算が取れるようにと、プロジェクトで考えることになっております。ルクセンブルクでは、じつは再生可能エネルギーのシェアは3%しかありません。もう一つのピアグループは、共同住宅を考えております。共同所有の住宅です。最後のピアグループでありますけれども、ペットボトルの水を使わない、というプロジェクトです。オランダの会社のデザイナーに頼みましてパイプシステムをつくりました。これは水道水なんです。そこで水が汲めるわけです。お金をとるんですけれども、それでアフリカ、バングラデシュできれいな水が調達できるよう支援をするのです。ここで変化を起こしたら、あっちで変化が起きるというプロジェクトが私はたいへん好きです。

持続可能性の問題の複雑性、それに対する統合的なアプローチは私たちほどのところはないと自負しております。今のたとえば学部のカリキュラムに組み込むこともできると思いますし、コースを開発することもできるでしょう。独立の単位としてサステイナビリティ・サイエンスのプログラムを設計する。あるいは修士課程をつくることもできるでしょう。これは特別なものではなくて、すべての人の学問だと考えていますので、組み込み型にしたいと思っています。ただ、大学のカリキュラムを変えるのは大仕事であります。私は2003年にルクセンブルク大学でプログラムを作りました。けれども、古い大学であったら無理だったかもしれません。教授陣が多様な問いに答えなければいけない、あらゆる変化の可能性にオープンでなければいけない、これは難しいことだと思います。それから能力開発のため、そして総合的な学問のために多様な手段が必要です。今までにない社会学習の役割を認識しなければなりません。研究者の何人が準備ができているでしょうか。市民と一緒に仕事をするのです。大学の構造も変えていかなければなりません。まだまだ私たちは完璧ではありません。非常に複雑な21世紀の課題に立ち向かっていかなければ、環境と社会の関係は変えられません。

サステイナビリティ・サイエンスは重要な役割を持っています。社会学習の場を市民とつくることがスタートですが、変化に柔軟であることと時間内に目的を達成することはトレード・オフの関係にあることに注意せねばなりません。

では最後に皆さんに質問を1つ投げかけます。これらの取り組みは、現在の産業活動のもとで私たちが望む変化を起こすのに果たして十分でしょうか?

ありがとうございました。

注)コモン・プール・リソースとは、地域の人々なら誰でも利用できるが(非排他的)、それにより過剰消費が発生し価値が減ずるリスクのある(競合的)自然資源をいう。里山の林産物、漁場の水産物、水資源などがその例。