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新しい道を行き、「ハーゲンシュミット賞」を受賞 低温科学研究所 河村 公隆先生

環境報告書2014より

Q.1 フロンティア精神は健在か?豊かで便利で快適な現代社会におけるフロンティア精神とは?

河村 公隆 Kimitaka Kawamura

北海道大学低温科学研究所 教授

静岡大学理学部化学科卒業。東京都立大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。東京都立大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了(理学博士)。日本学術振興会奨励研究員、カリフォルニア大学 (UCLA)地球及び惑星物理研究所 (IGPP)博士研究員、米国ウッズホール海洋研究所 (WHOI)訪問研究者。1987年 東京都立大学理学部化学科助教授。1996年より北海道大学低温科学研究所教授(大学院環境科学院教授を併任)。

ふと気がつけば、フロンティア。

世界で初めて人工雪をつくることに成功したのは、低温科学研究所の中谷宇吉郎氏です。同研究所は1941年に北大最初の附置研究所として誕生し、既存の分野にとらわれることなく、時代に応じた研究を創造してきました。

そして2013年、大気環境科学を対象とした「ハーゲンシュミット賞」を、河村公隆教授を筆頭著者とし、カナダの研究者を含む3人のグループが受賞。論文のタイトルは “Source and reaction pathways of dicarboxylic acids, ketoacids and dicarbonyls in arctic aerosols: One year of observation”。本来、日本語のタイトルは付いていませんが、訳すなら『北極エアロゾル中のジカルボン酸、ケト酸、およびジカルボニルの起源と反応メカニズム 〜1年間を通した観測〜』となります。この研究は北極圏の大気を観測・分析したもので、何が新しいのかと言えば、有機物に注目した点です。ここ10年くらいは「猫も杓子も有機物」というほど研究者が増えているそうですが、分析に手間がかかるため、以前はさほど研究が行われてきませんでした。

河村教授はあえて他の人が行かない道をめざしたのかと尋ねると「フロンティアなんて意識はなかった」そう。「大学院で琵琶湖の研究をする先生に学び、堆積物中の有機物を環境の復元に使えないかという研究をしていて、卒業後にそういう研究をするつもりでカリフォルニア大学に行ったら、当時、酸性雨の原因として有機酸の研究が始まっていて、『それをやって』と言われて『イヤだ』とも言えず、やっていたらカナダの研究者に声をかけてもらって……」というお話。「人から与えられたチャンスを、自分の中でおもしろがっていた」。そうしたら、世界的な賞を受けるほどの成果につながりました。

泰山の山頂付近から下を見る。ヘイズの層が見えます

ハイボリュームエアーサンプラーと煙霧

サンプラーで石英ろ紙の上に

採取したエアロゾル粒子

PM2.5が温暖化を抑制する。

さて、河村教授の研究をもう少し紹介しましょう。北極圏はいろいろな物質が集中する「天然の実験室」と考えられています。ここでの調査が地球全体の未来予測を可能にするわけではありませんが、グローバルな変化のものさしになります。

北極圏はきれいなようで汚れています。冷え込む冬に周辺から空気が入り込み、春の太陽光が射し込むと、光化学反応が一気に進んで「北極霞」と呼ばれる現象が発生。大気中に存在する微粒子(エアロゾル)を北極圏カナダの基地で採取し分析してみると、そのエアロゾルはさまざまな有機物が水溶性の有機物である「低分子ジカルボン酸」に変換したものであることが明らかになりました。この濃度は3月末から4月にかけて高くなります。

エアロゾルは太陽光を吸収・反射するとともに、凝結核として雲を生成させ地表を冷やします。中国の大気汚染に関するニュースで有名になったPM2.5は、直径2.5マイクロメートル以下の微粒子を言い、エアロゾルの一種です。もちろん誰もがきれいな空気を望むでしょうが、もしエアロゾルがなくなれば、地球表面の温度がとんでもなく上がると予想されています。

なお、有機物は見えないため、分析には「採取した試料に含まれる化合物をエステルに変換しガスクロマトグラフ検出して数値化する」という手法がとられています。

限りある人生をいかに生きるか。

河村教授は北極圏の他、日本はもちろん中国のエアロゾルに関しても研究を進めています。それを知ったtrue人の中国人学生が、家族らが悩まされている大気汚染をなんとかしたいと考え、北大にやって来て研究を始めたいとの申し出がありました。

対して元々北大にいる学生は、研究へのモチベーションがさほど高くないと教授には映っているようです。「研究で食べていくのは難しい。学位をとっても……と考えてしまいがちな時代です。しかし、限りある人生をいかに生きていくか、切り開いていくか、考えてみてほしい」と願っています。

ちなみに、研究がうまくいくコツなどあるのか聞いてみると、「自分が化合物になったつもりで、内在的に考察すること。論理的な考え方もイマジネーションも大切」と教授は答えてくれました。

カナダの観測船アムンゼン、北極海の8月ですが

海氷が見えます

船上に設置したエアーサンプラー