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活性炭を使ってバイオマスを資源に変える。触媒科学研究所 福岡 淳先生

環境報告書2013より

触媒科学研究所 所長 教授 福岡 淳

サトウキビの搾りかすがバイオエタノールの原料に。


「日本は資源の少ない国だから、あるものを有効利用しよう」。そう考える触媒科学研究所の所長・福岡淳教授は、身近な活性炭を触媒としてバイオマスを高い効率で糖化することに成功しました。バイオマスとは「再生可能な生物由来の有機資源で化石資源を除いたもの」ですが、この実験ではススキや稲わらなど植物系のものを使用。様々な材料で実験を試みた結果、サトウキビの搾りかす「バガス」からは、バイオエタノールや生分解プラスチックの原料となる「グルコース」と虫歯予防に有効な「キシリトール」を高い効率でつくることができました。

従来のバイオマス分解の研究では、通常、酸性の触媒が使われてきました。ところが今回は、アルカリ性に処理した活性炭を使うという、常識はずれな手法がとられ、それが成功に結び付いています。

酵素を超える触媒を生み出したい。


化学反応を手助けするものには、触媒の他に天然の酵素があります。しかし、これは価格が高く、厳密な温度設定やpH 設定が求められるという短所があります。触媒であれば、期待した反応が100%起こるわけではなく90%程度に留まりますが、人工物であるため、熱したり酸を入れたり、いろいろな条件での使用が可能です。しかも安価で、繰り返し使うことができます。そのため福岡教授は「酵素を超える触媒を生み出したい」と、次なる新発想に挑戦しようとしています。

触媒は“縁の下の力持ち”的な存在にすぎませんが、研究者としては「少し変えるだけで反応が大きく変わり、それが社会の役に立つなんてうれしい」そうです。研究室にいる学生の一人は「自分は有機化学の分野では飛び抜けていないと早くに悟ってしまった。でも、有機化学、無機化学、物理化学のすべてが融合した触媒の世界では、自分の努力を世界の環境問題解決につなげられるかもしれない」と研究に励んでいます。

研究は新規性が大切。


研究は新しくなければ意味がありません。それで、福岡教授は常に学生に「この研究のどこが新しいのか」を問いかけます。なお、“研究に向く人”は次のような人だと言います。まず、サイエンスを論理的に語れる人。そして、身近ではないことも、身近なことのように考えられる人。たとえば、スーパーのポリ袋が有料になったことと環境問題とを結び付けて考えられる人。さらに「シェールガスやメタンハイドレードは100年もつから大丈夫」などと考えない人。これらは、石油に代わるエネルギーとして期待されていますが、燃やす以外の化学変換が難しく、プラスチックの原料などとしては使えません。自分が生きている時代だけでなく、その先の世の中も想うことができる人が、研究者として求められています。