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未来をみつめたアクション −意志ある学生が主役になる−

環境報告書2013より

本学の学部教育、大学院教育においてはサステイナビリティへの意識を高めるプログラムが充実してきました。近年は、環境活動に自主的に取り組む学生らの活躍も目立ってきています。

学生が北大の問題を見つけて解決する。―サステナブル・キャンパス・コンテスト

学生の視点と発想で、より良い大学に。

2010年から開催されている「サステナブル・キャンパス・コンテスト」。
これは、北大の「サステナビリティ・ウィーク」中に、学生主催で開催されているイベントで、学生団体SCSDが企画・運営しています。

今回、説明してくれた代表の松尾悠佑さんと井上義之さんによると、コンテストでは、大学で実際に学んでいる学生が、研究や日常生活の中で感じる問題を提起し、解決策をプレゼンテーションします。提案が実現可能で有効と審査員に評価されれば、実現のための活動費が大学から支給され、実行に移すことができます。過去には、学生が自由に使用できる共用の掲示板について、より良い利用法のために「ポスター管理委員会」の結成が提案され、活動がサポートされたことがあります。

プレゼンター不足だった2012年。

2012年のコンテストでは、次のようなプレゼンテーションが行われました。①「つながる乗り物プロジェクト」クリーンエネルギーを動力とする“ベロタクシー”(自転車タクシー)とLCC(電動カート)で、学内の移動実験を行い、バスや車以外の乗り物がどのような役割を担うか提案。②「TFT-HOKKAIDO」TABLE FOR TWOは(2人のための食卓)の略称で、先進国でヘルシーな食事を取り、その1食分の売上のうち20円分を、開発途上国の子どもたちに給食として寄付する仕組みの提案。③「北大にコミュニティーセンターをつくる」大学構内に、学生や教職員、地域の人々がネットワークを形成できるような場となる「コミュニティーセンター」の建設を提案。

2010年8組だったプレゼンターが、2012年にはわずか3組の参加となり、発表内容の見直しやコンテストの周知が課題となりましたが、東京・大阪の大学生や札幌の高校生が見学に訪れ、参加者が学外にも広がったことは、明るい話題となりました。

屋内, 天井, テーブル, 人 が含まれている画像

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「サステナブル・キャンパス・コンテスト2012」の模様

草, 屋外, 人, スポーツゲーム が含まれている画像

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松尾 悠佑さん(左)と井上 義之さん(右)

2013年はプレ・イベントを計画。

コンテストをさらに盛り上げ、北大の問題を解決していくために、SCSDは次の開催に向けて、準備を進めています。2013年は新たにプレ・イベントとして「トークカフェ」を開催し、身近な問題を気軽に話し合う場を用意する計画です。

「北大の問題というよりは、札幌駅北口地区の問題ととらえて、北大生に限らず意見を交わしてほしい」とSCSDのメンバーは、学内外から大勢の参加を心待ちにしています。

空港にいる人たち

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学生が環境問題に取り組みながら強くなる。―文学部「地域科学演習」

たとえばカラス問題で問題解決のトレーニング。

環境問題の解決をめざす科目は、理系にしかないと思われがちです。しかし、本学では文学部でもユニークな科目が展開されています。2年次前期に学部専門科目として開講される「地域科学演習」は、大学院文学研究科の立澤史郎助教ら6名の教員が担当。30名前後が受講し、他学部の学生も加わっています。

全14~15回の授業があり、前半では調査に関する基礎技法を習得。文献や地図にアクセスし、双眼鏡やデジタルカメラなどのツールを活用し、資料や統計を批判的に読むといった技法を、毎年講座で開講する静内や阿寒・知床などでのエクスカーション(現地視察)の体験も交えながら身につけます。後半は身近な環境問題を例題としてとりあげます。キャンパス内でカラスに攻撃されて頭にケガをした人が出たことが発端となり、2009年からはカラス問題を題材に採用してきました。学生それぞれが「北大構内におけるカラス類の分布」「カラスに対する北大生の意識」などテーマを決め、問題解決の方法を考察し、プレゼンファイルとしてまとめます。

この講座で身につけた手法は、3年次前期の「野外調査法実習」でレベルを向上させ、4年次には卒業論文の形で完成されます。

正解なんてない。

この地域科学演習のねらいの一つは、学生に「正解なんてない」と身にしみてわかってもらうことです。高校までの勉強で「正解はどちら?」という考え方をするクセがついている人が多いですが、環境問題にただひとつの解などありません。それを実感するために、自分の意見や情報を整理することとともに、現場でひとの意見を聞くことを重視しています。

もう一つのねらいは、北大の課題を地域社会の課題としてとらえること。カラス問題やゴミ問題はそのために絶好の課題。大学の外で行うフィールドワークでは、動物の数を数えることもあれば、地域の人、企業の人、行政の人などと話す機会もあります。社会経験の少ない学生は、大抵どこかで失敗をします。しかし、立澤助教は「失敗しないことではなく、失敗をフォローすることが大切」むしろ「非常識を発想・実行する力が欲しい」と、学生が自分で判断する能力を発揮する機会を与え、地域の課題解決者としての成長を後押ししています。

公園でフリスビーをする人々

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学内でのカラス考察

森の中に立つ男性

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立澤 史郎 助教

北大はやりたいことができる。

じつは立澤助教は野生動物の生態研究が専門分野。「文学部で生態学ができるのは、日本の大学の中でおそらく北大くらい」だそうですが、これは、実学を重視し、研究の多様性・独立性を尊ぶ北大の伝統によるものとも考えられます。これまで屋久島や奈良公園のニホンジカの研究に取り組み、「最後はトナカイでしょ」と思っていたところ、シベリアから「北大なら……」と共同研究を提案され、現在は北方の少数民族とともにトナカイやオオカミの生態管理の研究もすすめています。そして、「文系・理系を分けるのは日本だけ。そんな枠にとらわれずに、大学でやりたいことを探してほしい」と期待し、学生を鍛えています。

学生には「学部や大学、大学と社会を股にかけ、やりたいことを実現する度量と技量を身につけてほしい」と願っています。

学生がおもてなし。「北海道大学 初夏のキャンパスツアー」

「初夏こそ、北大。」をキャッチフレーズに、2012年7月1日、「北海道大学 初夏のキャンパスツアー」が開催されました。現役北大生が無料ガイドとなって、キャンパスのおすすめスポットを案内するツアーです。主催は、北海道大学キャンパスビジットプロジェクト (HCVP)。2コースが用意され、定員は各50名。参加希望者はあらかじめメールとハガキで募りました。

「北コース」では、18条門に集合し、札幌農学校時代にクラーク博士の指示で造られたモデルバーンや、ふだんは入ることのできない農学部の農場を巡りました。「南コース」では、正門を出発地点に、農学部棟、ポプラ並木、クラーク像など、定番スポットを。参加者は北大の施設や歴史を知り、学生にとっては市民とふれあう良い機会になりました。

歩道を歩いている女性たち

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北海道大学キャンパスビジットプロジェクトが構内を案内

心ともる。「北大キャンドルナイト2012」

2012年6月21日、夏至の日に、インフォメーションセンター「エルムの森」で「北大キャンドルナイト2012」が開催されました。2004年に始まった「さっぽろキャンドルナイト」は、2006 年以降200 前後の団体が参加するようになっており、北大の参加は今回が2度目です。

当日は街路灯を2灯消灯し、正門から約100mの道路の両側に、キャンドル約230個を並べて灯しました。キャンドルは、風よけに新聞紙を使ったタイプと、紙袋を重ねてランタンにしたものを使用。工学祭にて学生団体SCSDが開催した「廃油からキャンドルを作ろう」で作成された、アロマオイルキャンドルも活用しました。なお、当日は工学研究院の学生の他、群馬から来た学生、家族で来た方々などがお手伝いをしてくれました。準備や後片付けは施設部環境配慮促進課も協力しました。

部屋の中にいる人たち

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廃油からキャンドル作り

環境を見つめる。「学生環境団体SCSD」 (The Students Council for Sustainable Development in Hokkaido University)

SCSD は、環境を考える北海道大学の学生が組織する団体です。2010 年に発足し、現在は工学部4 年生の松尾悠佑さんを代表として、工学部、農学部などの学生8人が所属しています。代表的な活動は、P11で紹介した「サステナブル・キャンパス・コンテスト」の他に「北大キャンドルナイト」があります。2013年は、市内の若者支援団体や本学ギターアンサンブル部に協力を仰ぎ、キャンドルに加えてお菓子や音楽も用意して、イベントを盛り上げました。

今後はイベントを開催するだけでなく、「学生がアイデアを実現するための窓口となりたい」そうです。メンバーの工学部4 年生・井上義之さんは「“サステイナブル”はまだぼんやりした言葉。SCSD をしっかり機能させ、市民との交流の機会も増やし、付加価値のある活動に取り組んでいきたい」と話します。現在、メンバー募集中。「言いたいことや、やりたいことのある人は、ぜひ一緒に活動してほしい」と願っています。

赤いシャツを着た男性

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松尾さん

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井上さん

食の安全をみんなで考える。「北大マルシェ」

2012年8月24・25日、3回目を迎えた「北大マルシェ」が開催されました。このイベントは、北の3大学連携として北大、酪農学園大学、帯広畜産大学が連携する大学院共通授業科目「食の安全・安心基盤学」の中で行われている実習です。

来場者は約8,000人。全道から50を超える生産者、食品業者などを集め、消費者との交流を通じて、農業や食料について理解し合うための様々な取り組みが、北大キャンパスの緑の中で行われました。

自転車の荷台に乗っている子供たち

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環境やエネルギーについて学ぶ。環境関連科目

学部および大学院では、次のような環境関連の科目が開講されています。

  • 「森林生態系と環境保全」(一般教育演習/1年次~)
    独創的な研究を実行し論文作成する基礎能力を高める。
  • 「人と野生動物の共存を考える」(一般教育演習/1年次~)
    自然科学的側面および人文・社会学的側面から考察。
  • 「南極学入門・雪と氷から見た地球環境」(一般教育演習/1年次~)
    知識ではなく論理的思考によって自然現象を理解。
  • 「物質変換工学」(工学部/2年次~)
    環境とバイオマス・化石資源の有効活用に関して解説。
  • 「持続可能な低炭素社会」講座(大学院共通科目)
    再生可能エネルギーの利用などについて専門家が解説。

ヒトと環境を深く見つめる。医学研究科

大学院共通講座として「社会と健康」Ⅰ~Ⅴを開講。環境と健康に関する講義を幅広いテーマから作成し、専門分野の教員が教育にあたっています。たとえばⅠでは「環境健康科学特論 パブリックヘルスとその関連科学」と題し、「人獣共通感染症の克服戦略」「生活習慣病と社会」などについて講義。Ⅲでは「環境と子どもの健康・発達」と題して、子どもに焦点をあてた講義を組んでいます。

地球規模の問題に取り組む。環境科学院・地球環境科学研究院

地球規模の環境問題の解明と解決を目指す教育研究とこれらの課題に取り組む研究者および高度専門職業人を養成することを目的とした大学院です。世界各地から広く学生・研究者を受け入れ、学際的な環境科学教育を行い、本学全体のサステイナビリティ学研究に重要な役割を果たしています。
なお、環境科学院および農学院環境資源学専攻は、国際的に卓越した教育研究拠点形成のための重点的支援事業「グローバルCOE プログラム」(日本学術振興会)として、「統合フィールド環境科学」を実施。地球環境問題を解決する研究を行うと同時に、行政、企業、教育などの現場で活躍できるリーダーを育てています。

リーダーも育てる。サステイナビリティ学教育研究センター (CENSUS)

サステイナビリティ学の教育と研究を目的に、全学的な分野を横断するプラットフォームとして2008年に設立されました。本学はサステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム (SSC)連携校であり、大学院共通授業科目に講義を提供する他、独自に大学院教育も行っています。また、国際的なサステイナビリティの現場でリーダーシップを発揮する人材を育成する、持続社会構築リーダー・マスター育成 (STRASS)プログラムも提供しています。

なお、本センターは2011 年にJICA(国際協力機構)の委託を受け、地球規模課題対応国際科学技術協力事業 (SATREPS)プロジェクト「インドネシアの泥炭・森林における火災と炭素管理」の代表研究機関となりました。全世界の60%を占めると言われるインドネシアの熱帯泥炭湿地林での火災は新たな環境問題となっており、このプロジェクトはCO2 放出量を抑制する管理システムの構築を目的としています。