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北大を未来へ繋ぐ研究とは −研究者とその卵たちへのメッセージ

環境報告書2010より

北海道大学がめざすサステイナブルキャンパスは、世界のサステイナビリティに貢献する技術や仕組みを研究するものです。世界をリードする研究者になるために必要なことを、佐伯総長と、本学からノーベル化学賞を受賞した鈴木章名誉教授が語り合いました。また、北大の中で後輩に引き継いでいきたいものなど、お互いに北大の卒業生であることから、OBとして後輩に期待を込めたメッセージが発せられました。

スーツを着た男性

自動的に生成された説明北海道大学総長 佐伯 浩 × 北海道大学名誉教授 鈴木 章

総合大学の良さはみんなで切磋琢磨し喜びを分かち合えること。

佐伯 サステナビリティの研究は、人間が持続的に発展し、生き延びていくために必要な研究です。自然界の現象を予測したいというところから始まり、ここ20年でコンピュータが発達したことによりいろいろなシミュレーションができるようになりました。しかし、そのデータが正しいかどうかを検証するのが大変です。北大はフィールドをたくさん持つ大学で、湿原、森林、土壌などの研究者が数多くおり、自然を相手にした地道な研究調査をしています。そういう研究者が長い年月にわたって繰り返し集めたデータがあってはじめて、大型コンピュータによる研究データの検証ができる。目立たなくても、それがまさに持続可能な社会をつくるための基礎的な研究だと思います。

鈴木 サイエンスは、派手なところだけ注目されても困りますね。地味なことがあってテクノロジーが進歩することを見てほしいと、一般の方や特に報道機関の方に対して思います。

佐伯 北大には化学や物理のベーシックな部分の研究者もいれば、社会や地球が持つ課顆を解決するための研究もあれば、その基礎になる地道なことをする研究者もいて、いろんなスタンスがある。それが大学の力です。

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鈴木 それをできるのが総合大学ですね。北大は非常にいい大学だと思います。私は化学を選んで理学部から工学部へ進んだけれども、薬学部や医学部にも化学分野はあります。そしてそれぞれの専門家とコミュニケーションがとれ、切磋琢磨、議論ができます。学部ごとにインディペンデントであるならば総合大学である意味はありません。

佐伯 最近は文系と理系の融合も必要になってきました。

鈴木 社会全体が複雑化すると自然とそうなります。お互いにコミュニケートしないと駄目です。研究は一人の成果ではなく、みんなの成果ですから、かなりの人数が関わり、各々がうれしいと喜びを感じることができるのでは。

森林、農場、船。自然に出て、フィールドを活用せよ。

佐伯 北大の学生諸君には、地球規模の課題を理解して、社会でそれを解決するのに全力をつくしてもらいたい。それには教育です。本学は2008年に「サステイナビリティ学教育研究センター(CENSUS) 」を作りました。文系理系それに学部学科にかかわらす、サステイナブルに関わる何百科目が受講できて、所定の単位を満たせばデイプロマがとれます。
もう一つは学部初年次学生向けに、フィールド体験型講義を作りました。研究フィールドを活用し、たとえば研究林で森を知り、牧場では畑の中で講義を受けてもらう。練習船で調査をし、臨海実験所で実験をして帰ってきます。自然へ出る楽しさやつらいこともあること、自然への親しみを知ってもらう。

鈴木 それは我々の時にはなかった、良いことですね。昔は、入学時は理類、文類、水産の3つだけで、1年半後に試験で学部を決定しました。それが最初から専門によって学部に分かれるようになり、今また一部戻ったみたいだけど、私は戻した方がいいと思います。

スーツを着た男性

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佐伯 日本の場合高校時代から文系・理系と分けてしまうのがよくないですね。本学では理系・文系の行き来もしやすくなりましたが、他の大学はキャンパスが離れているから、なかなか難しいようです。

鈴木 他の大学と比べると、学生がオープンというか、鷹揚というか、そういうところはありますね。

佐伯 日本の大学はここ20年ほど、経済的な行き詰まり、将来の展望の見えなさのようなものを感じます。

鈴木 悲観的な見方が蔓延している。

佐伯 たとえば束京大学に入る学生の7割以上が関東の出身者で、中高一貫の有名私立の出身者が多いと聞いています。京都大学も関西が7割で、どちらも昔は全国から集まっていたのですが、ある一部の層が固まって、それでいいのかという思いがあります。大学はいろいろな人が集まっているのがいいのではと。

鈴木 北大は日本中から来ているでしょう。

佐伯 今年総合入試を始めたら、5%くらい本州出身者が多くなりました。これも本学の特徴といえます。

考え方の違いをぶつけ合う体験をし、独創的な研究をする。

鈴木 ところで、学内に留学生が増えたように思いますが。

佐伯 1,400人くらいいます。

鈴木 昔に比べてすいぶん多い。

佐伯 でも、本学から留学するのは数百人です。今の学生は「行きなさい」と大学側が留学をすすめても行かないことが多いので、志向が内向きになっていますね。留学生を増やすことで、学生諸君に気付いてほしいのです。

鈴木 今の学生は少し引いているというか、もっと積極的に勉強しようという気持ちを持ってほしい。そう思って、私はいろいろなところで「海外へ出なさい」と言ってきました。今は日本のサイエンス、テクノロジーのレベルは高くなり、むしろ海外へ行かなくても十分にできます。しかし、外国に行くのにはそれ以外にもメリットがある。まずは外国語が勉強できること。それから、日本人同士は話せば以心伝心でわかりますが、外国の場合そうはいかない。議論しあってお互いに了解する、そういうプロセスが必要になります。

佐伯 海外の人と付き合うための基本的なことを学んでくるということですね。思考力やその仕方が違う人たちがいることを知るだけでも違います。

鈴木 そうしてできた友達は、一生の友達になりますから。また大切なものを得られます。
今は裕福で、ある程度気持ちが甘くなっているので、挑戦しないと駄目だと、僕は若い人に言いたい。日本のレベルが低いということではなく、進取の気性をなくさないでいてほしい。研究は、誰かに言われてではなく、その人自身がどういう研究をしていくのか信念を持ってやらないといけません。

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佐伯 研究者としての哲学ですね。

鈴木 私が教授時代から学生に言っていたのが、独創的な仕事をしなければいけないということです。私がアメリカで習ったブラウン先生が言っていたのは「教科書に載るような仕事をせよ」。オリジナリティのある研究をしなさいということだと私は理解しました。人真似では駄目、重箱の隅をつつくような研究も駄目。小さな重箱でも空から始めて、だんだん埋めていこう、新しい仕事をしようと、今でも若い人に言いたいです。
もちろん、新しいといっても、大学院を出たばかりで大きなambitionを持っても、すぐには実現できません。小さくても、物真似でなければいいのです。

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スーツを着た白髪の男性

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青々とした広大な芝生が変わらない北大。

佐伯 さまざまな研究の成果は、学生の目に見えてほしいですね。キャンパス内での持続可能な社会に合うマネジメント、運営が大切だと思います。こみの捨て方一つにしても、大学が緑を大事にしていることからも、その中で育つ学生が知らないうちに身につき、これからの生き方に生かせるように、我々も努力して住みよいキャンパスにしていかなければいけません。

鈴木 私は1994年に退職後岡山県へ行き、2002年に戻ってきました。8年離れてもキャンパスの外観は昔と同じ。特に良いのが外の芝生です。本州とは違ってブルーグラス、アメリカの芝生なので本当にきれいです。昨日、一昨日と映画(北大ショートフィルム)の撮影をして、中央ローンの芝生と川の景色がいいなあと思って眺めていました。この川は一時期水がなくなっていたけれど。

佐伯 今は藻岩山の麓から水道管で水を運んでいます。

鈴木 それからイチョウ並木も秋になると実に美しく、大学の中で一番いい並木だと思っています。

佐伯 ただ、我々が学生のときは並木に気付かなかったですよね。

鈴木 すごく小さな木でした。

佐伯 メインストリートにもあんなに木はなくて、ここ30年くらいで大きく育ったんですね。昔は風景がもっとスカスカで見通しがよく、日が当たるものだから、芝生がとてもきれいだったんですよね。昔から研究者や職員にも木を大事にする人、庭を調える人がたくさんいらっしゃいました。
持続可能な社会というのは、そういう小さなものを足し合わせてできるものだと思います。最初からCO2を25%削減するとか、そういうのは難しい。今よりも良くというのを我々みんなが心がけ、一人一人が努力してはじめて、サステイナブルキャンパスに変わるということを、本学の皆さんに訴え続けたいと思います。

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北海道大学総長
佐伯 浩(さえきひろし)
1941年宮崎県生まれ。1964年北海道大学工学部土木工学科卒業、1966年同大学院工学研究科修土課程修了。海岸工学、港湾工学、氷工学、寒地海洋工学を専門分野とし、波が港湾構造物に与える力、海上を移動する氷と波の関係などを研究してきた。2007年5月より硯職。]

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北海道大学名誉教授
鈴木 章(すずきあきら)
1930年北海道鵡川村(現むかわ町)生まれ。1960年北海道大学理学研究科博土課程修了。以後工学部合成化学工学科助教授、同応用化学科教授を経て1994年本学を定年退官、名営教授に。2010年、有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリングの業績で、リチャード・ヘック米デラウェア大学名誉教授と根岸英一・米パテュー大学特別教授とともにノーベル化学賞受賞。