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サステイナブルキャンパス国際シンポジウム2016基調講演よりエウジェニオ・モレロ ミラノ工科大学 建築・都市計画学科 助教

2016年11月1日・2日に開催した国際シンポジウムの基調講演より

サステイナブルキャンパスに向けての戦略的なマスタープランの策定

物理的空間と持続可能性原則のインターフェイス

皆様、こんにちは。このシンポジウムにご招待いただきましたことを感謝申し上げます。サステイナブルキャンパスに関して発表をさせていただくことは非常にうれしく、同時に大きな責任も感じています。私どもミラノ工科大学と北大とは、サステイナブルキャンパスに関して情報交換を行ってまいりましたので、すでに強い絆と友情が構築されているかと思います。今後も協働が継続されることを望んでおります。

今日の私の発表は「サステイナブルキャンパスに向けての戦略的なマスタープランの策定 ~物理的空間と持続可能性原則のインターフェイス~」についてお話をさせていただきます。まず私の自己紹介ですけれども、建築家で専門分野はアーバンデザイン。工科大学の建築・都市計画学科で行われているアーバン・シミュレーション・ラボにかかわる研究員です。また、工科大学で行われている都市のサステイナブルキャンパス研究にもかかわっています。アーバンデザイン・シミュレーション・ラボは、非常に規模の小さい研究室で、工科大学のクルティ教授、それから、カリフォルニア大学バークレイ校から1年間、工科大学にやってきたボッセルマン教授によって、2007年に設立されました。研究のテーマは、アーバンデザイン、モデリング、シミュレーション。常に学際的なアプローチをとることを心がけ、ビジュアル、知覚の側面、それからエネルギーの側面の環境課題にフォーカスしています。また、アーバンデザインと物理的なコンテクストとの関係性を調査しております。このシミュレーション・ラボでは、実際の建築物などのリアルモデル、フィジカルモデル、さらにデジタル・シミュレーションモデルも取り扱っています。

ここでビデオをお見せします。2008年のもので、高層ビルを建てる前にシミュレーションをして検証してみる例です。これは私とスイスの会社で開発したもので、伝統的なエネルギーマッピングという手法です。ソーラー土地台帳というものを利用して太陽の当たり具合を記録する研究で、ジュネーブで行われています。
今度は工科大学におけるサステイナブルキャンパス構築に関してお話をしてまいります。新しい学長が選出され、都市のサステイナビリティ研究というものが6年前から実施されています。限られた予算しかない大学にとって、サステイナブルキャンパスに関する戦略的計画を推進するのはどういう意味があるのかというお話をしてまいります。

ミラノ工科大学とミラノ国立大が2つ並んで写っているデジタルモデルの写真です。北大と比べると工科大学のキャンパスは非常に小さい都市型の要塞型のキャンパスです。4ブロックしかありません。工科大学とミラノ国立大学は、面積も学生数もほぼ同じ規模で、工科大学の学生数は17,000人程度、教員・職員の数は1,700人程度。キャンパスは非常に密度が高い設計になっています。私どものキャンパスでの戦略的な計画は、いろいろな主体をつなげていき、オープンスペース、パブリックスペースなどの利用をさらにオープンにしていく、また、キャンパスを地域住民にオープンにしていくというものです。サステイナブルキャンパスに向けての試みは、毎年、小さめの規模の改修工事を考えています。新しいものを建てることや大きなプロジェクトは考えずに、少しずつ毎年進めていくアプローチをとっています。

例として、ダビンチ広場の再設計があります。この事業を通して確認できたことは、マスタープランは、プロジェクトそのものではなくプロセスであるということです。2012年の時点で駐車場であった所を、人々が使えるようにしました。2013年に駐車場を閉鎖した時に、やはり反対意見も含めていろいろな意見が地域社会からあがってきましたけれども、我々はこれを再設計してパブリックスペースにしました。そこでは芸術、スポーツなどのイベントが企画されています。これは試験的な試みで、うまくいくのかシミュレーションを行っています。

これが再設計された広場で、今年の春に公開されています。今は非常にうまく使われるようになっており、正式なイベントもインフォーマルなイベントも行われます。ホワイトディナーと呼ばれるイベント、これはインターネットで開催告知をして、無料でディナーに参加できるというものです。工科大と地域社会との共同で行われたプロジェクトですけれど、市との合意に基づいて、大学もこの広場をいろいろなイベントに使えることになっています。

これはまた別の例で、駐車場が今年閉鎖されました。60年代に設計され、パブリックスペースの質が無視されてきたものでした。卒業生の、レンゾ・ピアノ氏が無料でこの広場の再設計をしてくれました。植栽を行って緑を増やし、オープンスペースを学生に積極的に使ってもらうことを目指しています。建物間の行き来を良くする試みも加えられています。キャンパスを通り抜けるチェロリアという通りがあり、私どものラボで再設計を担当しており、今その事業が進行中です。シミュレーション・ツールを積極的に利用し、建物のモデルをイベントなどでも公開しています。市民の方がヘッドセットを付けて見ているのがデジタルシミュレーションですね。最終的なデザインに取りかかる前に、地域社会と連携して様々な方からフィードバックを得るという、長期のプロセスをとっています。

今度は大学キャンパスの役割、その重要性について考えてみます。ミラノは大学街でありまして、その中でのキャンパスの重要性というものを考えてみたいと思います。

大学は都市の変容と再生の主要な活性剤となっていると思います。大学は、都市にとって最大の利害関係者であり、社会に大きな影響を与える位置づけにあります。また、大学は多くの学生を引き寄せるものであり、都市の活力を創り出す様々なサービス、安全性というものも併せて発生させます。若い世代は新しいライフスタイルを取り入れやすいので、アーバン・サステイナブル・モデルを試験するには非常に良い環境があると思います。若い人々は、シェアする経済、シェアする社会、よりサステイナブルなライフスタイルを試したいという傾向があります。

ミラノの街は20年から30年かけて、様々な都市のリノベーションが行われてきました。その例をいくつかご紹介したいと思います。まず初めの例は、ビコッカ (Bicocca)大学、国立大学ですけれども、そのマスタープランは1989年に策定されました。これは不動産業者のピレリ (Pirelli)が始めたもので、ここには住宅、本社ビル、複合利用オフィス、サービス産業が立地しました。都心部に位置し、非常に密集地帯となっており、あまり緑豊かな地域ではありませんけれども、非常にアクセスが良く、列車の駅がすぐそばにあり、地下鉄線も伸びています。

次は工科大学の2番目に大きいボビーザ (Bovisa)キャンパスの例です。オープンスペースがありますけれど、これはガスの工場があった跡地です。南の方に工学部があり、東の方にインダストリアルデザイン科があります。エリアは涙型になっており、列車の線路の形状を示しています。最新のマスタープランはオーマ  (OMA)建築設計事務所によるものです。このプロジェクトは、土壌汚染が深刻で、土壌を改善するには多額の費用が必要なため、中止になっていました。一から再出発することになり、私どもの学部の担当になりました。参加型の再開発プロジェクトを立ち上げ、何が必要なのか、どういう課題があるのかをまず住民から聞き取った上でマスタープランを作ろうという流れを考えました。今年、ミラノ工科大学で教授ら10名にアイデアを募集しました。集まったものから「10のデザイン」というものを市に提供しています。

次にご紹介するのは、ボッコーニ (Bocconi)キャンパスの例です。ここは私立の商科大学のキャンパスとなっているところです。まったく新しいキャンパスをつくるということで、プロジェクトには日本の建築家、妹島和世さんと西沢立衛さんが参加して、非常に創造的で斬新なアイデアを展開しています。既存のキャンパスが北の方にあり、その南に新しいキャンパスをつくるプロジェクトです。

現在、さらに大きなプロジェクトとして我々が関係しているのが、ミラノ・エクスポ2015の跡地、これをどうするかということです。ミラノの北の方に跡地があり、そこに研究施設を造ることを政府が検討しています。ここは様々な分野の企業、研究施設などが統合される場所になっています。主なテーマはライフ・サイエンス。健康、ウェルビーイング、薬学、医学関係のものを集約する計画です。今、考えられている案は、ミラノ国立大学の理科系の学部がエクスポの跡地に移転をするというものです。ここのキャンパスのマスタープランを日本の隈研吾建築都市設計事務所が担当することになっていて、第一の提案は、水と緑が豊かな環境を中心に考えたもののようです。あくまでも仮説ですけれども、ミラノ大学がこのエクスポ2015の跡地に移転をすると、その後、私どもの大学に新たな課題と機会が生まれますが、現キャンパスを離れることに関しては若干のリスクも想定されることになります。

ミラノ市から、大学が立地するこの地区に新しいマスタープランを策定してもらえないかという依頼を受けています。このマスタープランは不確定な部分が大きく、いつ誰が新しいところに入ってくるのか決定されていない時点でシナリオに取り組んでいます。私どもはまず地域住民の声を聞き取って、地域と連携をしていこうと考えています。これは長期的な建設現場となるであろうと見ておりまして、入居者がこの地域に入ってくると、いろいろな問題が発生するかもしれませんけれども、それにも気をつかって取り組んでいくというスタンスでいます。

ここからは、サステイナビリティを大学のキャンパスマスタープランにどのように位置づけていくかについてお話をしていきます。緊急の課題がある中でどのような方向性をとっていくのかを考え、マスタープランに変更が必要な場合は新たなツールが必要となるかに関して話していきたいと思います。その次に、キャンパスについてのいろいろな計測・評価をして比較しようにも、キャンパスの比較は非常に難しいというお話をしていきたいと思います。

キャンパスの形態は様々なものがあります。都市型、都市型の中でも分散型と要塞型、それからアーバンオアシス型、都市周辺型、地方農村型というタイプがあります。ここで学生が調査したキャンパスのタイプをあげていきます。北大が左側の1番目、ミラノ工大のものは3つ目の非常に小さいキャンパス。緑地も小さく、北大と比べるとベイビーのようなサイズです。

4つのタイプをまとめてあります。まず、都市型。都心部に位置しています。右側は都市周辺型のキャンパス。下が地方に位置するキャンパス。そして、左側の下が北大。これがアーバンオアシス、非常に緑豊かなタイプのキャンパスとなっています。

これはキャンパス進化の過程で、過去から未来へ向かうタイムラインになっています。キャンパスの持続可能性とプランニングには、この過程で様々な新しい課題が発生します。はじめはエネルギー・マネジメント、交通計画、廃棄物が主でしたが、時間とともに他の課題が現れます。後に二酸化炭素排出量、コミュニティ・プランニングに向けたサステイナビリティ評価がより重要となり、将来的には、食料、ウェルビーイングや健康、最後は、気候変動、気候変動適応、そして大学内部の協創が中心的になってくるということです。

最後にまとめとしまして、サステイナブルキャンパスのマスタープランの中に取り込むべき7つのポイントをご紹介したいと思います。これは私の個人的な経験に基づいたもので、デザインやサステイナビリティに関する将来的な方向性を示すものです。

(1)マスタープランとは、プロジェクトそのものではなく、長期的なプロセスとして捉えることが、まずあげられるかと思います。オープンな生態系が時を経て順応し学んでいく過程であり、その中で変化を受け入れるものにしていく。そして最終的には回復力があるものになっていく。ポイントについて、例を1つご紹介しておきますけれども、分散して小規模で少しずつ行っていく例を示したマップです。マスタープランにとって非常に重要な要素として、サステイナビリティの進捗を評価するモニタリング・システムが必要不可欠です。物理的な環境性能を計測できる機器があるのが望ましいという例です。香港大学のものです。

(2)2番目は、包括的なプロセス。やはり地域との連携や、地域住民なしではサステイナビリティというものが達成できないということ。話し合いの場を設け、テーブルごとにテーマを設定して、住民にも参加してもらう例をご紹介します。また、このようなデザインコンペを企画し、学生も参加し貢献できるという機会を設けています。

(3)最近の課題として、シェアする社会、シェアする経済がサステイナビリティを高める傾向にあります。多くの学生がスマートフォン等を積極的に活用しており、そのようなツールを使ったライフスタイルは、お金の節約になり、環境にも良い。将来に向けてこういったツールを使い、どのようにサステイナビリティと組み合わせていくのかということが、3つめのポイントです。これはゴミステーションのようなもので、ゴミがいっぱいになった時点でセンサーが感知し、運用効率を高める1つの例です。シェアリングに関して言えば、空間をシェアすること、そして空間利用の新しい方法を考案すること、という考えができるかと思います。駐車場とは別の目的に空間を利用することも可能です。

(4)4番目のポイントは、多様性のためのデザインということで、幅広い年齢層の人々、いろいろなバックグラウンドの人々、それから、いろいろなタイプの環境が重要と捉えています。これは生物多様性の考えから来ていますけれども、いろいろな場所を回復力のある豊かな場にしていくことが可能かと思います。そして、いろいろなサービスを24時間提供する。その中に住宅というものもあります。

(5)5番目のポイントはデザイン。これが人々の行動に影響を与えるということです。新しいマスタープランは、人々の行動や動きにどう影響を与えるのか。デザインや空間の存在は、移動のしやすさ・健康・ウェルビーイング・働き方・食のあり方にも影響します。ファーマーズマーケットの例ですけれども、キャンパス内で質の高い食べ物を提供することによって、人々の生活の中にも質の高いものが取り入れられてくると、行動に影響を及ぼします。学生による自転車修理店も開設されています。コミュニティ・ガーデンというものは、広場にあるスポーツ施設で、市民に開放されています。

(6)6番目のポイントは、人の流れ、動線というものを考えておくこと。最近の課題として理解しておかなければならないのは、キャンパス内におけるインプットとアウトプットですね。これがどのようにデザインに反映されるのかが大きな課題になっています。たとえば、地産地消のような例ですけれども、キャンパス内で生産した野菜を地域で消費することで、地域の中でサイクルを完結します。また、この建物はゼロエネルギービルディングで、キャンパス内で発電し消費できるように配慮されています。

(7)マスタープランを策定するということは、今日、やはり将来の高等教育のモデルを考えていくことにつながっていくかと思います。21世紀の高等教育とその空間デザインは、どのように変化していくのか?新しい課題です。フレキシブルな空間デザインを提供することが、サステイナビリティにつながるのかということも重要な点だと思います。

ご清聴ありがとうございました。