活動・調査報告

「SDGs×北海道2023」を開催しました。

北海道大学・北海道・JICA北海道の3者は、「SDGs×北海道セミナー2023」を2月8日(水)に開催しました。
本セミナーは、北海道大学学術交流会館と留萌高校を結んだオンラインで開催され、200人以上の方にご登録いただきました。司会進行は、北海道 佐々木敏 計画推進課長が務めました。

開催挨拶 濱坂真一 (北海道総合政策部 部長)

経済・社会・環境をめぐる広範な課題に統合的に取り組むこととしているSDGsの考え方は、今後、持続可能な地域社会の形成を進めていく上で欠かすことができない視点と考えています。本日のセミナーがそれぞれの地域や立場でSDGsに取り組むきっかけになってほしい、と述べられました。

開催挨拶 石丸卓 (JICA北海道所長)

近年、世界は気候変動・感染症・国際紛争など複合的な危機に遭遇し、SDGsの進捗も懸念される状況になっているが、国際社会が目標を共有し多様な力を結集して取り組みを進めていく必要がある。今回のセミナーが、皆様の新しい一歩を踏み出すきっかけになることを期待する、と述べられました。

基調講演 「環境再生型事業とブランド」
阿座上陽平 ((株)Zebras and Company創業者 兼 (株)ユートピアアグリカルチャー代表取締役) 

「リジェネレイティブアグリカルチャー(環境再生型農業)」について説明しました。リジェネレイティブアグリカルチャーとは、農地の土壌を保ち、また修復・改善しながら自然環境の回復につなげることを目指す農業のことです。ユートピアアグリカルチャーでは、本学農学研究院の協力の下、札幌で放牧によるリジェネレイティブアグリカルチャー型の酪農を行っています。取り組みについて説明を行いました。
また「ゼブラ」という考え方も説明しました。「ゼブラ」とは、自社の利益を追求していくのではなく、相利共生、自社に関係する様々な人・会社・自然も一緒により良い社会を目指していく考え方です。説明では、「ゼブラ企業」の実例を挙げながら、「ゼブラ」を社会実装していくためには、コミュニティと意識を共有した「群」で取り組んでいくことが大切だ、と説明しました。

取組発表紹介①「私の持続可能性」
城戸大樹
 (JICA海外協力隊経験者 ガイア動物病院獣医師) 

JICA海外協力隊で東ティモールにて環境教育を行った後、支笏湖周辺で環境教育活動を行っている事例発表がありました。支笏湖ではいろんなアクティビティがあり多くの観光客が訪れます。発表では、支笏湖を訪れた人に、ただ楽しむだけではなく、国立公園を活用して、ごみ・植物・動物についての話しをしながら環境普及活動を行っていたり、環境調査・保全事業を行ったりしていることを説明しました。

取組発表紹介➁「パートナーシップですべての人に健康と福祉を」
髙野悠己 (JICA海外協力隊経験者 東川町立東川日本語学校学校推進室マネージャー) 

JICA海外協力隊としてパプアニューギニアで感染症対策に関する活動を行った経験を活かし、東川町で留学生に医療提供支援を行っている事例を報告しました。東川町は日本で唯一の公立日本語学校がある町であり、町内では多様で多くの留学生が一緒に生活しています。取組発表では、留学生が日本で健康・医療とつながる上で「情報」と「言語」の面で課題があることが伝えられ、留学生の健康を守るための仕事をしていることを説明しました。

取組発表紹介③「無肥料・無農薬水田が未来の地球環境を救う!?-江戸時代に倣う水田農法-」
浪江日和 (北海道大学大学院農学院 土壌学研究室 博士後期課程1年)

土壌学研究室で研究している持続可能な農業(サステイナブルハーベスト)の1つである「中耕自然農法」について説明を行いました。中耕を行うことより、イネの生育に必要な養分や酸素を土壌に入れ、土壌中のメタン生成を阻害することで温室効果ガスを抑制しつつ、無肥料・無農薬でも従来の収穫量を確保することを目的としています。無肥料・無農薬にすることで、生態系の保全にも貢献します。研究結果では、中耕自然農法により収量は低下するものの、メタンの排出が抑制できていることが示されました。今後は十分な収量とメタン排出量のいいバランスを探り、サステイナブルハーベストの実現を目指していくことが伝えられました。

参考:北海道大学土壌学研究室ウェブサイト

取組発表紹介④「AI とIoT を活用したデータ駆動型灯油配送計画の立案」
大江弘峻 (北海道大学大学院情報科学院 調和系工学研究室 博士後期課程1年) 

寒冷地の冬季に欠かせない灯油の配送について、AIとIoTを活用したデータ駆動型の灯油配送業務の効率化について発表しました。現状、灯油タンク内の残量は目で見えないため、タンク内の灯油を切らさないようにするためにこまめな配送を行わざるをえず、灯油配送会社は輸送効率・コストに課題を抱えています。本研究では、各家庭の灯油タンクの残量をレーザセンサーにより推定する方法を開発し、また、AIとIoTを活用したデータ駆動型灯油配送計画を立案することで、配送コストとサービス品質のバランスの実現をめざしています。説明では、タンク内の残量や給油作業時間について実証実験を行ったことも伝えられ、今回のAIとIoTの活用が輸送効率に効果的であることが伝えられました。

参考:北海道大学調和系工学研究室ウェブサイト

取組発表紹介⑤「知らないと怖いプラスチック」
留萌高校 ごみチーム

ごみチームのメンバーは、プラスチックごみがどのように扱われているかを調べて発表しました。調べ学習では、プラスチックごみが海に流出して漁業資源に影響を及ぼしていることや、留萌管内での最終処分場で可燃性埋立ごみに多くのプラスチックごみが混在していることなど、プラスチックごみが上手に処理できていないケースがあることが分かりました。その中でも、自分たちの地域で上手に処理できない要因の一つである「二重袋」に焦点をあて、プラスチックごみが可燃ごみとして処理されないように二重袋をやめることを提案しました。

取組発表紹介⑥「風力発電の新たな可能性」
留萌高校 風力チーム

風力チームのメンバーは、これまでに風力発電施設の運営・管理について見聞きしたことを資料にまとめて発表しました。再生可能エネルギーとして風力発電は注目されていますが、野鳥に影響が出たり部材調達が難しかったりするデメリットもあることが、これまでの調べ学習で分かりました。風力チームは、風力発電のメリットやデメリット、風力発電の種類を調べ、留萌管内の各地域とのマッチング提案を行い、どのように風力発電を進めるべきか、自分たちの考えを伝えました。

※取組発表紹介⑤⑥は「留萌高校×北海道大学SDGs・ゼロカーボンプロジェクト」の一環で、本学が留萌高校の生徒に教育支援を行い、生徒がその調査結果をまとめ発表したものです。本プロジェクトでは数回のワークショップを実施しました。ワークショップについては下記リンクをご覧ください。
プレワークショップの開催(2022/07/11)
フィールドワークの実施(2022/10/06)

パネルディスカッション
ファシリテーター:加藤悟 (北海道大学サステイナビリティ推進機構 教授)
パネリスト:上記取組発表紹介者

パネルディスカッションでは、まずはじめにファシリテーターが今回のセミナーの趣旨説明を行いました。SDGsの考え方に「Think Globally, Act Locally」というものがあります。「今回のセミナーでは、いろんな意識を広く持ちながら、北海道という土地で活躍をしている人を幅広く紹介した」と、セミナーの趣旨説明を行いました。趣旨説明を受けて、パネリストたちは取組発表についての講評・感想を述べました。パネリストから「自然(あるいは環境)と人間の付き合い方」や「ITなどの技術を上手に活用していくこと」などを考えさせられたとった意見や感想が出されました。
海外協力隊で海外を経験した2名からは、「気づき」についても意見を出してもらいました。「環境教育」を考えた時、海外と日本で「環境」の捉え方が違います。また海外と日本では医療体制やインフラも異なります。2人は現地を体験することで知ったこうした日本と海外との違いに気づき、「気づき」から自分たちの今の日本での活動につながっている点を話しました。
取組発表を行った院生の2名からは、研究室で研究を行うのではなく、現地や実証実験を行うことの難しさについて聞きました。一般の農家の人に自身が取り組んでいる中耕除草を広めていくことの難しさや、共同研究を行う上でミーティングなどを通じてコミュニケーションをとっていくことの難しさについて話しました。
最後にパネルディスカッションのまとめとして、道内の色々なところ色々な思いで活動していくこと、これら活動を発信して連携していくこと、そしてこれら一連の活動を持続していくことが大事だと述べ、パネルディスカッションは終了しました。

閉会挨拶 横田篤 (北海道大学理事・副学長(国際、SDGs担当))

今回のセミナーを受けて、総括と閉会挨拶を行いました。総括では、SDGsの目標である2030年まで折り返し地点に来ている中、課題解決に取り組む上で2つ大切なことがあることに気づかされた、と伝えました。1つは「現場を見ること」もう1つは「若い世代の育成と活動」です。SDGsの考え方をもとに、課題を解決していくという流れが出来れば、2030年、あるいはその先の社会の持続可能性というものが保てていくのではないか、と話しました。
「今回のセミナーが、SDGsを通じてお互いの気づきや相乗効果につながっていくことを期待します」と閉会挨拶を述べて、本セミナーは終了しました。